構造設計に関する賞を受賞している構造家と呼ばれる人でも、通常の構造形式である一般の建築物の設計を行うことはあります。それは構造設計であって、構造デザインではないのか?それとも、人(構造家)に紐づくものであって、優れた構造家が設計すれば、全て構造デザインなのか?
あらためて、構造デザインについて、そして、我々のような普通の構造設計者でも構造デザインは出来るのかを考えてみます。
構造デザインには様々な意味がある
ウィキペディア(Wikipedia)によると構造デザインとは以下とされています。
- 構造設計において難題な条件下で、独創的かつ非常に優れた構造解決手法をあみ出している
- 構造体の設計がデザイン的に優れている
これを私なりに解釈すると、建築家による構造的に複雑、難解かつアクロバティックな建物形状を構造設計技術により、実現する。または通常は見えない構造体を意匠的に見せることで、構造体自体がデザインになる事でしょう。
これが“構造デザイン”と一般的に最も良く使われる定義でしょう。
日本で最初に構造デザインと言う言葉、考え方を提唱したのは、惜しくも今年(2021年4月)にお亡くなりになりました渡辺邦夫氏です。渡辺邦夫氏の著書「飛躍する構造デザイン」の中で以下のように語っています。

『構造デザインとは、構造のあり方をそのまま建築表現にすることによって、構造がつくり出す美しい空間のプロポーション・躍動感・緊張感、そしてすぐれた居住性を実現する構造計画の手法である。』
構造デザイン=渡辺邦夫氏とのイメージが大きいですが、これによると構造のみを考えるのではなく、建築そのものに対し、構造はどうあるべきか、どのように計画すべきかが渡辺邦夫氏にとっての“構造デザイン”なのでしょう。つまり、渡辺邦夫氏の係わる構造設計は全て、構造デザインとなります。
構造設計に関する賞として、日本構造デザイン賞があります。これを主催している日本構造家倶楽部によると対象となるのは以下です。
- 構造設計において独自性のある技術を持って、社会性、文化性のある建築作品
- 社会的、文化的功労の観点から顕著である構造設計に関する活動・業績
日本構造デザイン賞は、構造設計者の優れた業績に対して社会評価が行われる機会の少ない状況を改善しようという、故松井源吾教授の高邁な思想に基づいて1990年に設立された松井源吾賞を継ぐものです。意匠性を意味するデザインと言う観点ではなく、構造設計全般に対する評価となっています。
構造設計を英訳すると、Structural Design(構造デザイン)です。このように考えると構造設計に関する全ての優れた業績も構造デザインと言えるでしょう。
このように“構造デザイン”には様々に意味があり、これが構造デザインを短い言葉で定義すること意味はないのかもしれませんが、もう少し考えてみます。
美しくなければ構造デザインではない!
日本語で構造設計ではなく、構造デザインと言うのであれば、“美しさ”が必要です。
意匠設計者が考える美しい構造デザインとは外観などで構造体自体がデザインとなっている設計や構造体を表しにして、それがデザインとして機能しているものでしょう。

尚、建物形状や外観は意匠デザインであって、それを実現する構造はデザインとは考えません。
では構造設計者が考える美しさはどうでしょうか。
意匠性、デザイン性に重点を置かれた構造体は美しいとは感じません。構造的合理性があり、力の流れが美しい事が重要です。目には見えないものですが、これが構造設計者の考える美しさです。そして、構造デザインです。
出来上がった建物だけではなく、構造理論、評価式などでも美しさを持っているものがあります。これも構造デザインと言えるでしょう。
尚、技術的に高度である、大規模である、強い建物であるだけで、美しさのないものは構造デザインではないと考えます。
建築構造設計べんりねっとの考える構造デザインとは
勝手ながら、建築構造設計べんりねっとが考える構造デザインとは何かを提唱します。
- 構造的合理性を有し、力の流れが美しいこと
- 構造体自体が建物の優れたデザインとなっている
- 独創的かつ非常に優れた構造的解決手法で優れた建築形態を実現している
これを満足する構造設計が構造デザインと考えます。
補足ですが、これらを満足しないと問題がある構造設計である、優れていないと言う事ではありません。あくまでもクライアントの満足度が重要です。簡単な手法で合理性があるものが出来るのであれば、それは優れた構造設計です。