2020年10月14日

建築構造の認定の種類、その効果

 私達、構造設計者が使用する材料や工法には様々な認定があります。認定と同じような言葉で評定と言うものがあります。その他、評価、技術性能証明などと呼ばれるものがあります。
大臣認定.png
 これらは何が違うのか?
認定、評定の構造工法、構造材料
 まず、建築構造の認定、評定等を取得している工法、材料を挙げてみます。
@露出型固定柱脚(ハイベース、ベースパック等)
Aトルシア型高力ボルト
B高支持力PHC杭(HYPER -MEGA工法等)
C場所打ちコンクリート杭(ニューイーグル工法)
D高強度せん断補強筋
E地盤改良(テノコラム工法)

他にも様々な工法、材料があります。

この中で@からBは認定、C、Dは評定、Eは技術審査証明です。




認定と評定、技術性能証明の違い
 認定とは、正式には国土交通大臣認定と言います。認定の対象となるのは、建築基準法で扱えない技術、材料であり、これらを法適合させるための手続きが認定です。効力は法律と同じになり、原則、有効期間はなく、関連する法律が改正されるまで有効です。

 一方、評定、技術性能証明は簡単に言うと法律内で扱える技術、材料等の性能を評価するものです。これが建築基準法で規定する「特別な調査、研究」にあたります。技術性能証明も同様です。

 尚、建築基準法に抵触してない技術、材料は大臣認定を取得することは出来ません。
大臣認定にも様々な種類がある!
 一口に大臣認定と言っても様々な認定があります。

●建築基準法37条認定
建築基準法で規定していない材料の認定。露出型固定柱脚、トルシア型高力ボルトがこの認定です。

●建築基準法施行規則1条の3認定
これは図書省略認定と呼ばれます。建築基準法施行規則で建築確認に必要な図書を規定していますが、これを省略出来るとの内容です。高支持力PHC杭がこれにあたります。何を省略するかと言うと杭支持力算定におけるα、β、γの検討を省略出来るとの書き方になっています。他にも建物工法の認定で建築基準法で定められている検討、計算書を省略出来るとのものもあります。
使いようによっては便利な認定の形式です。

●型式適合認定
これは住宅メーカーなどが取得する建物全体の認定です。この認定の取得により、確認申請での単体規定の審査は省略されます。この認定は建物一棟(型式)ごとに全ての部位の認定の取得が必要です。よって、大和ハウスで問題となってように少しでも仕様を変えると認定は無効になります。

●製造者認証
これは型式適合認定を更に進化させ、施工管理の認定も受けたものです。これを取得すると現場の検査も無くなります。型式適合認定、製造者認証は基本的に性善説にたった認定です。

●建築基準法38条認定
これは、どの認定かと言うと上記のように建築基準法で扱えない技術、材料を認定する制度は建築基準法で技術、材料ごとに細かく規定されていますが、それでも扱えない想定もつかない新技術を認定するための制度です。構造関係で38条認定に該当するものはないと言われています。
尚、以前は大臣認定は全て、建築基準法38条で規定されていたのですが、復活した今は新38条認定と言われています。




評定、評価?
 認定、評定と同じような言葉で評価と言われるものがあります。これは大臣認定を受けるための制度です。国土交通大臣認定と言っても大臣や国交省が審査をするわけでなく、詳細な審査は日本建築センターなどの指定評価機関が行うことになります。この審査が評価、性能評価です。
 評価と評定は実質は同じような事をしますが、評価は法律に基づいた審査制度、評定は任意の審査制度と言うことになります。よって、評定の事を任意評定と言ったりもします。
尚、評価は法律に基づいた審査制度であり、費用(手数料)も法律で決められている法定手数料です。この手数料は評定比べると安く、多分、指定性能評価機関としては実質、赤字でしょう。よって、大臣認定取得にあたっては任意に手数料を決められる評定を取得するように言われます。

技術審査証明
 更に技術審査証明と言うものがあります。これは認定、評定、評価と何が違うかと言うと技術、材料の直接的な性能ではなく、基礎、地盤改良工法などの施工方法等の審査証明が同じ主です。これも法律に基づくものではなく、任意のものです。
 注意が必要なのは、審査機関の審査証明事項は申請者が申請した事項に対してのみであると言う事です。この申請証明事項は審査証明書に記載されており、資料として添付されている書類は参考資料としての扱いのみであります。
 具体的に言うとこのような例です。

 ある材料を基礎下に設置すると支持力が増強される工法を開発しました。この工法におけるその材料を基礎下に設置する施工方法の技術審査証明を取得しました。別添の資料には支持力計算式なども書かれていますが、これはあくまで参考で審査証明機関が証明したものではないと言うことです。
技術審査証明を取得してる工法だから安心などと思うのではなく、その内容を良く確認することが必要です。一、二枚の審査証明書を見れば分かる事です。

特許取得工法?
 おまけですが、工法、材料の優位性を示すために特許取得工法と書かれているものがあります。もちろん、工法、材料を発明するのは素晴らしいことですが、私達が実務で使うには全く意味がありません。認定、評定が取得出来ないため、特許を取ったと言うものもあります。
 そもそも、特許とは、そのアイディアに対するものです。つまり、それが出来てなくとも良いのです。
また、特許は既にあるものに対しては取得出来ませんが、そこは弁理士さんの腕で、ある工法の中のほんの一部の特許をあたかも、その工法全体のようになっているものもあります。


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2020年10月04日

はかま筋とは?その役割、配筋方法

はかま筋とは、どの部分の鉄筋?


 はかま筋とは、独立基礎における上端および側に“カゴ状”に基礎を囲う鉄筋です。(下図参照)
モデル.png

 基礎の下側はベース筋(基礎筋)がありますので、はかま筋は不要です。下側が開き、基礎を覆う形状が“袴”に似ている事から、はまま筋と言われるのでしょう。杭基礎の場合も直接基礎の場合もはかま筋と呼びます。





はかま筋の役割


 ご存じの通り、基礎は建物の荷重を地盤または杭に伝達する部材であり、基礎には下図のような応力が発生します。この役割を担う鉄筋はベース筋(基礎筋)です。
モデル1.png

 はかま筋は基本、構造計算でその鉄筋量を決定するものではなく、基礎コンクリートを拘束、ひび割れを防止するための鉄筋です。通常はD13@300程度を配筋します。

 少し、イレギュラーなケースを紹介します。
 地震時に基礎に引抜力が生じることがあります。この場合、基礎自重または杭の引抜力で抵抗する事になり、下図の通り、基礎の上端にも応力が発生します。はかま筋は基礎に作用する引抜力を処理する役割も担っています。
モデル2.png

 次のイレギュラーな例としては複数本打ちの杭基礎の場合です。杭には地震時に水平方向の荷重が作用し、この反力を基礎で柱、地中梁に伝達させる必要があります。この反力により、基礎には、ねじれが発生し、コンクリート断面のみで処理できない場合は鉄筋で補強を行います。構造図でベース筋と兼ねて、スターラップ状に配筋する指示がある場合がこのケースです。
モデル3.png
 まとめるとはかま筋の役割は以下となります。

  • 基礎コンクリートを拘束、ひび割れを防止する。

  • 引抜力が発生する場合、その力を処理する。

  • 複数本打ち杭基礎の場合、杭からの水平力を柱、地中梁に伝達させる。



  •  引抜力が発生せず、複数本打ち杭基礎でなければ、省略しても構わない鉄筋です。そのような設計もありますが、特に杭基礎の場合は杭頭補強筋の定着力を高める意味でも
    省略しない方が良いでしょう。






    はかま筋の配筋方法


     上記で説明した通り、はかま筋は基本的には応力を負担しない鉄筋です。ベース筋(基礎筋)との取り合いは、水平方向に15dとなっていますが、これは定着や重ね継手ではなく、直筋だと配筋が行いづらいためです。固定出来れば、100mm程度でも良いでしょう。
    重ね継手をする場合も梁の腹筋と同様に15d程度でも構いませんが、引抜力を処理する場合もあるので一般には通常の鉄筋と同じように40dとされています。
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    2020年06月13日

    層間変形角の単位は何?rad(ラジアン)?

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     水平荷重時の層間変形角変位δを高さhで割った値、正確には高さhを変位δで割った値の逆数で我々、構造設計者は表記する。
    層間変形角.png

    層間変形角=δ/h=1/(h/δ)

    この層間変形角の単位は何なのだろうか?

     層間変形と言うくらいだから、角度の事である。角度の単位で私達が一番馴染みのあるものとしてはまず、度数法の“ ° ”がある。(30°、45°...)カッコよく言うとDegree(デグリー)です。
     他には高校の時に数学で習った弧度法(radian)があります。表記は、rad(ラジアン)である。建築では他に角度の表し方として、寸勾配、分数勾配(1/100勾配)などがある。





     建築基準法告示では、「層間変位の高さに対する割合」となっている。割合と言う事は角度ではなく、単位はない。
     様々な文献では層間変形角の単位をrad(ラジアン)で表記しているものがあるが、これが正解なのか?

     私達も層間変形角を言う場合、1/350 rad(ラジアン)と言った方がカッコいいので何となく、rad(ラジアン)と言ってみたりする。

    rad(ラジアン)って、何だっけ? 弧度法について、おさらいしてみる。rad(ラジアン)とは「半径がr の円において、弧の長さがr の時の角度」である。弧の長さがrの時は1ラジアン(rad)、360°の時は2πラジアン(rad)となる。
    ラジアン.png
     なぜ、数学で弧度法を使うかと言うと式が「シンプルになる場合が多い。極限、微分をするときにやりやすい。」という数学上のメリットがあるからです。

    層間変形角の単位をrad(ラジアン)表記する事は正しいのか? 層間変形角で言うとrad(ラジアン)は半径に当たるものが高さh、変位δは水平変位であり、弧の長さは算出していない。とすると高さhを変位δで割った値の逆数をrad(ラジアン)で表記する事は正しくないのでは。。。

     下図の通り、層間変形角 = δ/hは、tanθである。とすると角度θは、その逆数のarctan(δ/h)である。
    rad1.png

    これをEXCELでシミュレーションしてみた。
    rad2.png

     結果としては、我々が層間変形角として扱う範囲の値では、ほぼ近い値だが、角度が大きくなるとその差は大きくなる。

     結論としては、層間変形角(δ/h)の単位をrad(ラジアン)で表記する事は厳密には正しくない。





     と結論付けたが、正しいのだろうか?(笑)更に層間変形角をrad(ラジアン)で言う人はカッコつけてるだけど付け加える。と言う私もrad(ラジアン)を付けるが。

    単位は目的に応じて、使い分ける 角度の単位で誰もが直感的に判断できるのは度数法のDegree(デグリー)“ ° ”でしょう。しかし、層間変形角を度数法で表記するには数値が小さすぎ、判りづらい。また。層間変形角を見て、判断する事は分母の値の大小です。
     弧度法のrad(ラジアン)は数学的な取り扱いを便利にするためのものであり、層間変形角をrad(ラジアン)にして、何のメリットはない。
     屋根の勾配などについては寸勾配、分数勾配とした方が、ある位置での高さを簡単に算出できるメリットがある。これも弧度法のrad(ラジアン)としてもデメリットしかない。
     単位には様々なものがありますが、やはり、その目的に応じて、使い分ける事が大事ですね。

     
    posted by 建築構造設計べんりねっと at 11:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 構造設計メモ