2021年06月13日

配筋について考える│定着と重ね継手、その違いは?

 鉄筋どうしの接続、部材どうしの接続を行うために鉄筋を継手、定着します。重ね継手長さはL1、定着長さはL2で表記され、重ね継手長さL1は定着長さL2よりも長くなっています。

 この継手と定着の違いについて考えてみます。
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鉄筋の継手とは鉄筋どうしを接続するものではない


 継手とは単一部材の鉄筋を現場で接続する方法であり、圧接継手、機械式継手、重ね継手があります。
圧接継手、機械式継手は2本の鉄筋を1本に接続するので明解です。
 分かりづらいのは重ね継手です。

 鉄筋は部材断面に発生する応力における引張力を負担します。この重ね長さが足りないと鉄筋は引き抜け、この部分で破断してしまいます。そうならないように適切な重ね継手長さを確保します。この長さはコンクリート強度と鉄筋強度にて決定された鉄筋径の倍数長さL1として定められています。

 鉄筋どうしは直接、繋がっていないので鉄筋に発生する引張力がコンクリート断面に伝達され、それが繋がる鉄筋に伝達されます。(鉄筋に発生する引張力をコンクリートを介して、伝達する。)

 重ね継手は鉄筋どうしを束ねても、間隔を空けても良い事になっています。(空き重ね継手)

 つまり、重ね継手は鉄筋どうしを接続するものではなく、継手を行った部分の断面を一体化するものです。

重ね継手は何故、鉄筋の空きは不要か


 鉄筋は付着力を確保するため、コンクリートの充填性のために鉄筋の空きの規定があります。しかし、重ね継手には空きがありません。
 何故、重ね継手には空きが不要かと言うと、継手部分の鉄筋の空きの規定を適用すると鉄筋が並ばなくなってしまうからでしょう。

 付着力により、鉄筋はコンクリートとの一体化、応力の伝達を行いますが、重ね継手部分は元の鉄筋に対しては付着力が低下します。しかし、この部分は鉄筋が重なっている分、鉄筋量は多くなっています。これらを考慮して、重ね継手長さが決定されているのでしょう。

定着長は何故、重ね継手長さより短い?


 定着長さL2が重ね継手長さL1よりも短い理由としては定着は部材の仕口部分で行われるものであり、コンクリートが拘束されており、より、付着強度が多いためです。また、鉄筋を束ねない分、付着力の低下もないためです。




鉄筋の定着は部材の中心を超えて、定着させないとならない?


 このような事を言う構造設計者が居ます。

  • 部材芯の位置で線材モデル化して構造計算を行っているので定着鉄筋は部材芯を超えて定着しないとならない。

  • 定着される側の部材の中心を超えないと応力が伝達出来ない。


これは間違っていると考えます。

定着も部材の一体化が目的なので、応力により鉄筋が抜け出ない長さが確保されていれば問題ありません。大きな部材に定着する場合、定着長を長くしても、手前の付着力で伝達され、部材芯まで伝わると言う訳ではありません。尚、どのような部材も大きさがあるので鉄筋の定着の状態にかかわらず、必ずしも線材置換による応力状態と完全に同じにはなりません。

柱への大梁主筋定着の必要水平投影長さは別です。


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2021年03月04日

層間変形角とは│構造設計者が説明する居住性の話

層間変形角とは、ずばり、これです。


 層間変形角とは地震で建物が横に揺れた時の変位の角度です。

層間変形角@.png

 地震が起きた時、建物は上図のように斜めになります。この変位(揺れ幅)の高さに対する比が層間変形角であり、変位を高さで割った値の逆数で表します。分子は1とし、分母の数字が大きいほど、揺れにくいと言う事になります。
層間変形角A.png
 建物の強度(剛性)は階ごとで違っていますので層間変形角も階ごとに算出します。




層間変形角の基準


 層間変形角は建築基準法施行令第八十二条の二で「1/200(著しい損傷が生ずるおそれのない場合にあっては1/120)以内であること」となっています。

 地震時に建物が大きく揺れると転倒を起こしてしまいます。そこまでいかなくても、壁仕上げ材などが脱落する恐れがあるため、この規定があります。

 木造や変形に追従できる壁材とした鉄骨造は1/120まで緩和されています。木造の準耐火構造の場合は防火被覆材の脱落を防ぐために1/150以下となっています。

層間変形角は居住性を示す指標


 層間変形角は居住性にも関係します。層間変形角が大きい建物だと地震時や暴風時に大きく揺れ、恐怖心、不快感を感じます。

 一般に各構造の層間変形角や揺れにくさは下記となります。RC造(鉄筋コンクリート造)に対し、木造は8倍程度、鉄骨造は4、5倍程度揺れます。揺れに対する恐怖感は単純にこの比率とはなりませんが、揺れの感じ方は明らかに変わります。
層間変形角B.png
 このような話をすると木造は怖くて住めないのか?と言うとそうではありません。地震時、暴風時の揺れによる恐怖感は層間変形角ではなく、地表面からの絶対変位が関係します。

 木造2階建てと鉄骨5階建ての例を上げて、説明します。層間変形角は木造1/120、鉄骨造1/200、階高は各階 3mとします。この場合において、木造2階部分の絶対変位は25mm(3000÷120)です。
 一方、鉄骨5階部分は60mm(3000×4÷200)となります。つまり、鉄骨5階部分は木造2階部分の2.4倍揺れることになります。この揺れ幅の違いが恐怖感、不快感に影響します。

鉄骨造の中高層マンションの計画はナンセンス


 鉄骨造で5階を超えるマンション計画の相談を受けることがあります。絶対変位による居住性を考えた場合、どうでしょう?

 上記の検討で木造3階建ての3階部分は50mmとなり、鉄骨5階部分とほぼ同じ値です。木造3階建て住宅は世の中にたくさんあり、普通に住んでいられると言う事は地震時・暴風時の揺れが
我慢できる範囲なのでしょう。これが、鉄骨10階建てとなった場合は135mmとなり、木造3階建て部分の2.7倍です。どうでしょう?我慢できますでしょうか?

 ゆえに5階を超えるマンションは世の中には殆ど、存在しません。住宅・マンション販売サイトで探しても、まず、ありません。
 コストだけを考えて、鉄骨造で5階を超えるマンションの計画はナンセンスです。検討するのも時間の無駄でしょう。

 「鉄骨造で5階を超えるオフィスビルやホテルはあるじゃないか」と言う人も居ると思いますが、その建物に居る時間が短いため、我慢ができるのです。長い時間を過ごす住宅では許容できません。

posted by 建築構造設計べんりねっと at 07:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 構造設計メモ

2021年01月12日

鉄筋、配筋の呼び名│知らないと現場からの質疑で恥をかく!

 鉄筋、配筋は部位より、呼び名があります。同じ鉄筋でも複数の呼び方があったり、いわゆる現場用語的な呼び名もあります。
 知らないと現場からの質疑で恥をかくこともあります。

 以下に様々な鉄筋、配筋の呼び方を挙げてみます。構造設計者にも現場施工者にも役立つ内容です。
鉄筋、配筋の呼び名の基本
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主筋

主筋とは、その部材に作用する力を処理する鉄筋です。主筋と呼ばれるのは曲げ応力を処理する柱の縦方向、梁の部材軸方向の上下の鉄筋です。
スラブでも主筋と呼ぶ鉄筋があります。通常は短辺方向の鉄筋は主筋となり、その鉄筋が効きやすいように外側に配筋します。部位、力のかかり具合によっては短辺、長辺の主筋方向が逆になり、その旨(主筋方向)が構造図に指示されている場合もあります。
壁、基礎スラブにおいても曲げ応力が主となる場合は主筋と呼ばれる鉄筋が存在することもあります。

配力筋

主筋に対し、主ではないと言うと語弊がありますが、スラブ、壁において、主筋の直交方向の鉄筋を配力筋と呼びます。
字の通り、部材に作用する力を主筋に配る役割です。
配力筋と言っても主筋よりは少ないですが、応力は負担しますので、適当で良いと言う訳ではありません。

上端筋、下端筋

字の通り、それぞれ上側の鉄筋、下側の鉄筋を指します。
梁、スラブのように水平方向の部材で上端、下端に配筋する場合にこのように呼ばれます。
基礎鉄筋において上側の鉄筋が応力を負担する場合は上端筋、下端筋と呼び場合があります。

縦筋、横筋、斜め筋

これも字の通り、それぞれ縦方向、横方向、斜め方向の鉄筋を指し、主に壁の鉄筋でこのように呼びます。
木造の基礎はりで主筋を横筋、スターラップ(あばら筋)を縦筋、横筋と呼び人も居ますが正しくはありません。

あばら筋、スターラップ

梁に作用するせん断力を処理する部材の外周部を囲むように配筋される鉄筋です。
日本語ではあばら筋、英語ではスターラップと呼びます。ST、STRとも表示されます。

帯筋、フープ

柱に作用するせん断力を処理する部材の外周部を囲むように配筋される鉄筋です。
日本語では帯筋、英語ではフープ(HOOP)と呼びます。
梁のあばら筋、スターラップと同じ役割、同じ形状ですが、柱の場合は帯筋、フープと呼びます。
杭におけるせん断補強筋もフープと呼びます。

腹筋

梁の側に部材軸方向にD10、D13で配筋される鉄筋です。
腹筋は基本的には力を負担するものではなく、一定間隔で鉄筋を配置することでコンクリートを拘束、ひび割れを防ぐ目的の鉄筋です。よって、定着や重ね継手は不要です。
まれに腹筋が応力を負担する場合がありますが、この場合は構造図に定着長などが指示されます。

幅止め筋

この鉄筋も力を作用する鉄筋ではなく、コンクリートが硬化するまでの間、鉄筋位置を保持する目的の鉄筋で1m間隔程度で配筋します。柱、梁、壁などに用いられます。

中子筋

幅止め筋と同じような位置、形状ですが、中子筋はせん断力を処理する鉄筋です。柱の帯筋、梁のあばら筋において、外周部のみの鉄筋で不足する場合、内部の配筋されます。構造図では4-D13@200、日-D13@100などと表記されています。
中子筋.png




カットオフ筋

一つの梁、柱の主筋において、端部・中央、柱頭・柱脚なので本数を変える場合、途中で止まる鉄筋のことをカットオフ筋と呼びます。

ベース筋

基礎の下側に配筋される鉄筋のことをベース筋と呼びます。

ハカマ筋

基礎において、上部及び側面に配筋される鉄筋です。基本的には梁の腹筋と同様に応力は負担せず、コンクリートを拘束、ひび割れを防ぐ目的の鉄筋です。

現場、鉄筋屋さんは、このような呼び名も使います。

バンド、割りバンド

柱の帯筋、梁のスターラップをバンドと呼ぶ場合があります。SRC造で仕口部のフープは梁ウエブを貫通させるため、二つに分けたコの字型の鉄筋を差し込み、組み合わせますが、これを割りバンド(割りバン)と呼びます。

トップ筋

カットオフ筋の意味です。なぜ、このように呼ぶかは不明です。



イナズマ筋

階段において、階段の形状に合わせ、イナズマ型に加工された鉄筋をイナズマ筋と呼びます。

キャップ(タイ)

梁スターラップなどの加工において、フックを付けた鉄筋を組み合わせる場合、上部にかぶせる側の鉄筋をキャップ、キャップタイと呼びます。
キャップ.png

ステッキ

片側に180°フックを付けた鉄筋をステッキと呼びます。おすすめはしませんが、柱四隅のフックなどでステッキを重ね継手として使用する場合の鉄筋です。

宙吊り筋

梁の主筋を2段で配筋する場合、上端筋の2段目は1段目の鉄筋から、S字フックなどで吊る形で配筋します。これを宙吊り筋と呼びます。

段取り筋

現場で配筋作業を行い際、構造図に記載されている以外で施工上、鉄筋を保持するなどの目的で鉄筋を使う場合があります。これを段取り筋を呼びます。

他にもこんな呼び方の鉄筋、配筋がある。

用心鉄筋

鉄筋は部材断面において、引張力が作用する場所に配筋します。小梁だと、中央下端、端部上端になります。ですが、中央上端、端部下端にも不測の事態のために最低限の鉄筋は配筋するようにします。これを用心鉄筋と言います。

ベント筋

鉄筋は部材断面において、引張力が作用する場所に配筋すると説明しましたが、効率良く配筋するためにスラブなどで下図のように折り曲げ、必要な部分のみに鉄筋を配筋する方法があります。これをベント筋と呼びます。
ベント筋.png

モチアミ配筋

上記のベント筋に対し、スラブで短辺、長辺方向に餅を焼く網のように鉄筋を組むことをモチアミ配筋と呼びます。尚、ベント筋は配筋に手間が掛り過ぎるため、現在では殆ど、用いられません。
posted by 建築構造設計べんりねっと at 07:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 構造設計メモ