2022年08月07日

杭頭曲げモーメントの付加軸力は考慮不要?!C〜考慮が必要なのは、この場合

 杭頭曲げモーメントによる付加軸力考慮の必要性について考えるためにシミュレーションをしてみようと思う。
 検討は下図のRC8階建て、X方向6.5mの1スパン、Y方向5.0mの2スパンのモデルにて行います。
杭頭曲げモーメントモデル.png




杭頭曲げモーメント付加軸力考慮の影響


 X1-Y3通りの長期及び地震時、短期軸力は以下となります。

 NL  2200 kN
 NE(X) 1630 kN
 NE(Y) 1740 kN
 Ns(X) 3830 kN、570kN
 Ns(Y) 3940 kN、460kN


 杭は場所打ちコンクリート杭にて、全て同じ杭径とし、側方N値を 3(E0=2100kN/u)、杭頭完全固定とすると杭頭曲げモーメントMk及び付加軸力Nkは以下になります。

 Mk 1340kN・m
 NkX) 410 kN
 Nk(Y) 400 kN


 これを加算すると地震時軸力は約25%、長期軸力を考慮した短期軸力は約10%増えることになります。

 ΣNE(X) 2040 kN ⇒1.25倍
 ΣNE(Y) 2140 kN ⇒1.25倍
 ΣNs(X) 3830 kN ⇒1.11倍、160kN ⇒0.28倍
 ΣNs(Y) 3940 kN ⇒1.10倍、 60kN ⇒0.13倍


 このケースでは支持力は長期が支配的であるため、杭支持力には影響しませんが、地震時軸力が長期軸力以上で短期が支配的になる場合は10%程度の支持力不足となります。
 杭の水平耐力については検定比が0.75→0.79と4%ほど低下します。このモデルでは杭に引張力が生じていないので影響は小さいですが、引張力が生じる応力状態になると杭の水平耐力にも影響はもっと大きくなります。



各種低減を考慮した場合の杭反力


 ここで各種低減を考慮します。

●転倒モーメントの低減係数(日本建築センター「高層建築耐震計算指針」)

 この式によると軸力は階数%分、低減されることになり、130kN、140kNの減となります。

 α=1-0.01・n =0.92(n:階数)
 NE(X) 1500 kN ⇒130kN減
 NE(Y) 1600 kN ⇒140kN減


●基礎根入れによる水平力の低減
 基礎根入れによる水平力の低減については通常は見込まない設計者が多いかと思いますが、技術基準解説書に記載されている事項であり、考慮することもダメではありません。

 α=1.0-0.2・√H / 4√Df=0.22

●杭頭固定度の低減
 杭頭固定度の評価は先に記載した通り、非常に難しいことではありますが、以前、大阪府の指導事項に50%としてよいとありました。ここでは80%とします。
 これに上記の根入れによる水平低減を考慮すると杭頭曲げモーメント及び付加軸力は以下となります。

 Mk 840kN・m
 NkX) 260 kN
 Nk(Y) 250 kN


 短期の軸力としては以下となり、その比率は3%程度なので、杭においては誤差の範囲とも言え、支持力には問題ないでしょう。

 ΣNs(X) 3960 kN ⇒1.03倍
 ΣNs(Y) 4050 kN ⇒1.03倍


 杭の水平耐力検討についても杭頭固定で検討していれば、曲げモーメントが実状よりも小さいことを考えると変動軸力の影響は少ないものと考えられます。

 以上より、通常の安全率(10%程度)で検討しておけば、杭頭曲げモーメントの付加軸力を考慮しなくとも十分に安全を確保できると考えられるのではないでしょうか。




どのような場合に杭頭曲げモーメントの付加軸力を考慮すべきか


 上記のシミュレーションは一つの例のみであるので、どのような場合に杭頭曲げモーメントの付加軸力を考慮すべきかを考えてみます。

 まず、杭頭曲げモーメントは杭側方の地盤強度が小さいと大きくなります。液状化の危険性がある地盤では付加軸力を考慮すべきと考えます。
 また、1スパンの建物において、地震時に引抜力が生じている場合は付加軸力による影響も顕著になってきます。この場合も考慮が必要でしょう。



まとめ

以下の場合は杭頭曲げモーメントによる付加軸力を考慮すべき
・液状化の恐れのある場合
・1スパンの建物において、地震時に引抜が生じている場合

その他の場合は杭頭曲げモーメントによる付加軸力は考慮不要





 皆さんはどう考えますでしょうか?異論反論お待ちしております。

 尚、その他にも杭頭曲げモーメントによる付加軸力しないとならない場合があることもあります。法律だけでは判断できない構造モデルや設計方針に関することを審査する構造計算適合性判定では指摘されることもあるでしょう。そこには判定員の考えも入るでしょう。
 しかし、法的には必ずしも考慮しなくとも良いのは明らかです。法律に適合しているかを審査する確認審査機関で審査では杭頭曲げモーメントによる付加軸力に関する指摘は少し違うのではないかと思います。



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2022年07月23日

杭頭曲げモーメントの付加軸力は考慮不要?!B〜杭設計の検討仮定を考える

 前章で説明しました通り、杭頭曲げモーメントの付加軸力を考慮しない事は力学的には説明がつきません。しかし、杭頭曲げモーメントの付加軸力は考慮不要と考えている人も居ます。そして、それで確認申請や適判が通ることがあるのも事実です。

 なぜ、杭頭曲げモーメントの付加軸力は考慮不要との考えもあるのかを別の視点から考えます。




杭頭の固定度は完全固定ではない


 上部-杭分離モデルで杭の水平力に対する応力計算を行う際、通常は杭頭固定とします。以前は大阪府のように杭頭の固定度を50%と指導していた事もありました。当然、杭頭の固定度を小さくすれば杭頭の曲げモーメントは小さくなります。

 この杭頭の固定度ですが、杭と基礎との接合が半剛接(バネ接合)である言うことではなく、節点及び接続する地中梁の回転により、固定度が下がる状態の事を言っています。

 この固定度の評価は杭径や架構状態などの要素が関係し、非常に難しいものです。よって、現在では安全側に考慮し、完全固定とするのが主流となっています

 つまり、杭頭曲げモーメントを実状よりも大きく評価している事になっています。実状とは想定する地震レベルで実際に発生する力のことです。

 以前、建築技術にあった記載ですが、押し込み状態にある支点では杭頭の固定度が上がる、引張状態にある支点では固定度が下がるとの記載がありました。杭及び地中梁に対しては杭頭完全固定度での応力で良いですが、杭頭モーメントによる付加軸力は複数の杭が関係しますのでここまで大きくする必要はないとも考えらえれます。

そもそも、杭設計用の軸力は実状よりも大きい


 次に私達がAi分布で計算した地震力による解析軸力は実状よりも大きいことがあります。

 保有耐力計算においても搭状建物を除き、転倒はしないもとして計算します。この理由は『建築物の構造関係技術基準解説書』で以下のように解説されています。
 Ai分布の値は各階の設計用の地震層せん断力を定めることを主眼に設定されたもので、この値に基づく転倒モーメントの値は地震時に想定される値よりもやや大きめの値となっていることのほか、地震の継続時間を考慮して建築物を転倒せしめるエネルギーを求めてみると、一般的に考えられる大地震では建物は転倒に至らないと考えられる。


Ai分布による軸力、転倒モーメントについて、もう少し説明します。





 地震時の層せん断力を求めるにあたり、建物の各階を1質点にしたモデル化を行います。地震時の揺れは全ての階が同じ方向のみではなく、下図のように複雑な変位をします。全ての階が同じ方向に変位する状態を1次モードと呼び、モードの数は階の数だけあります。そして、各階における最大層せん断力は同じモードの時とは限りません。
モード.png

 この各階における最大層せん断力を集め、一方向に加力したものがAi分布です。
ai.png

 上図において、各層の地震層せん断力が1階は1次モード時(Q1)、2階は3次モード時(Q2)、3階は2次モード時(Q3)であったとします。これを1階はQ1、2階はQ2、3階はQ3となるようにしたものがAi分布です。上部構造の各階におけるせん断力に対する設計を行うには非常に便利なものです。
 この時の軸力、転倒モーメントを考えます。1次モードの場合、建物左端では全ての階の層せん断力が引く抜き方向に作用します。しかし、2次モードでは3階の層せん断力は建物左端に対し、圧縮側の力となります。
 つまり、このようにAi分布による軸力、転倒モーメントは想定する地震レベルにおいて、実状よりも大きくなっているのです。

≪参照≫
https://www.structure.jp/column35/column35_2.html
https://www.structure.jp/column7/topic711.html

 尚、日本建築センター「高層建築耐震計算指針」では、この事を考慮した「転倒モーメントの低減係数」が記載されています。



基礎、杭の設計は不明な部分が多い


 基礎、杭の設計に対しては不明な部分が多く、不確実性があります。
 まず、基礎部分の水平震度0.10です。上部構造の検討地震レベルを標準せん断力係数が0.20とした場合の基礎部分の水平震度0.10に対する根拠のようなものを探しましたが見つかりませんでした。「0.10としましょう」と決められたものかもしれません。
 地震力とは地震により地盤の変位した時の慣性力です。地中に埋まっている基礎は地盤と一体で変位し、慣性力は発生しないとも考えられます。

 基礎が地中に埋まっている事による水平力の低減効果(根入れの効果)については評価方法の基準がありますが多くの設計者は考慮していないと思います。

 規模の大きくない建物であれば、基礎が地中に埋まっている効果は大きくなり、基礎設計用の応力は大き目に評価していることになります。

 また、杭の水平力に対する応力解析方法も研究者レベルの考えでは確立されたものがないとの認識のようです。とは言っても分からないでは設計が出来ない。そこは安全率でカバーしているのが実情です。


総合的に考慮するとそこまでやる必要はない?


 これらを総合的に考慮すると杭設計の応力(軸力、水平力)は元々、大き目となっている。よって、杭頭曲げモーメントの付加軸力まで考慮する必要はないのではと言うのが考慮不要派の考えなのでしょう。

 これに対して、考慮必要派は「では上部-杭一体モデルで適切に杭頭固定度を考慮して解析しろ。転倒モーメントの低減係数も根入れ低減も考慮しろ。なんなら応答解析を行え。その上で杭頭曲げモーメントの付加軸力を考慮すべきだ。」との反論をするでしょう。

 しかし、残念ながら、このような解析は不確実な部分が多く、問題を難しくするだけとなる事が往々にあります。そもそも、私達が構造解析は様々な仮定の上で一つの釣り合いを求めているだけであり、実際の応力とは違います。この応力に対し、安全率を考慮した部材設計を行うことで構造的安全性の確認を行う事が構造設計です。そこには様々な工学的判断が入ります。

 よって、杭頭曲げモーメントの付加軸力を考慮しないのも一つの工学的判断でしょう。

 もちろん、全てのケースで不要との事ではありません。



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2022年07月16日

杭頭曲げモーメントの付加軸力は考慮不要?!A〜本当に力学的に正しい?

 杭頭曲げモーメントの付加軸力は考慮について引き続き考えます。考慮が必要と言う人の理由は「力学的に考慮するのが正しい。考慮しないと釣り合いが取れなくなる。」です。
 広島県 県内構造関係規定取扱方針においても、杭の地震時設計軸力に杭頭曲げ戻しモーメントによる付加軸力考慮の理由は「地中梁の設計において、杭頭曲げ戻しモーメントを考慮することとする以上、支点反力は釣り合わせる必要があるため」となっています。

 これは本当でしょうか?




杭頭曲げモーメント付加軸力の力学的妥当性


 下図のように1層1スパンで先端をピン支点とした杭基礎モデルを考えます。ここでは計算を簡単にするために地盤の水平バネは考慮しないものとします。上部構造の層せん断力は100kN、杭部分の層せん断力は150kNとし、上部架構の部材剛性は柱の反曲点が柱中央にあるものとします。
モデル1.png

 まず、通常の上部構造と杭分離モデルでの杭反力を求めます。
 柱の曲げモーメント(M1、M2)は柱頭部、柱脚部とも75kN・m、杭頭部の曲げモーメント(M3)は225kN・mとなります。
 M1、M2 = 100kN/2×3.0m/2 = 75kN・m
 M3 = 150kN・m×2/3.0m = 225kN・m

 杭頭曲げモーメントは地中梁のみで処理するため、大梁の曲げモーメント(M4)は75kN・m、地中梁の曲げモーメント(M5)は300kN・mとなります。
 M5 = 75kN・m + 225kN・m = 300kN・m

 大梁及び地中梁からのせん断力が杭反力125kNとなります。
 N = 75kN・m×2/6.0m + 300kN・m×2/6.0m = 125kN



次に上部構造と杭を一体としたモデルで杭反力を求めます。
 柱脚部節点においては杭分の剛性が増えるため、反曲点が下がります。柱の曲げモーメントを柱頭部 50kN・m、柱脚部100kN・mと仮定します。杭頭曲げモーメントは変わらず、225kN・mです。
 大梁の曲げモーメント(M4)は50kN・m、地中梁の曲げモーメント(M5)は325kN・mとなり、この時の杭反力も125kNとなります。
N = 50kN・m×2/6.0m + 325kN・m×2/6.0m = 125kN

 これが杭頭曲げモーメントの付加軸力考慮必要派の「力学的に正しい。釣り合いが保てる。」です。

 下図のように多スパンの場合を考えます。3箇所の杭が同じ杭径とすると分離モデルによる杭頭固定での検討では3箇所の杭の負担水平力は同じになります。しかし、一体モデルで考えると力学的にはQ2>Q1、Q3となるはずです。つまり、側柱の杭は実状よりも負担水平力、杭頭固定曲げモーメント及び付加軸力を大きく考慮している事になります。
多スパン.png

なぜ、地中梁だけに曲げ戻す?


 さて、ここで一つ問題があります。上部-杭分離モデルで杭頭曲げモーメントを曲げ戻す際、地中梁だけに曲げ戻していることです。力学的な正しさであれば、柱にもその剛性分で曲げ戻す必要があります。上部-杭一体モデルにおいても柱脚部曲げモーメントが増えることが考えれます。

 なぜ、地中梁だけに曲げ戻すかの理由ですが、計算が煩雑になるからです。

 尚、杭頭曲げモーメントを柱脚部にも曲げ戻すことより、地中梁応力は減少しますが、上部架構の梁応力が増えるため、付加軸力は変わりません。
 日本建築センター『構造計算適合性判定を踏まえた建築物の構造設計実務のポイント』では「この節点に取り付く柱の柱脚曲げモーメントが過少になっていないかは別途検討するのが望ましいと考えられます。」と書かれています。

杭頭曲げモーメントを基礎梁芯まで曲げ戻すことは不要


 一般には杭頭モーメントを基礎梁に曲げ戻す際、杭頭位置から基礎梁芯までの距離に杭負担せん断力を乗じた値を加算します。これも”力学的正しさ?釣り合い?”と言われていますが、日本建築センター『構造計算適合性判定を踏まえた建築物の構造設計実務のポイント』に記載の通り、必ずしも不要です。

 そもそも、杭の応力計算はどの位置で行っているのかと言う問題があります。基礎梁芯位置と考えてもおかしくはありません。また、実際は大きさのある部材を線材に置換しているため、発生する応力であり、このような釣り合いを求めることは不要です。
 平成19年の建築基準法改正では“整合性”について強化され、建築確認において、このような力学的整合性?に対する指摘が増えました。例えば、鉄骨造水平ブレースのゲージラインが柱梁芯からずれている事に対する付加応力などもそうです。完全な線材部材であれば、水平ブレースは節点に取り付くべきです。しかし、実際は部材の大きさがあり、ボルトなどの接合部もあります。どのように接合しても何処かには多少の付加応力が発生します。どの部分を重要視するかの問題です。これを無理やりに柱梁芯に合わせることで納得したり、簡単な線材モデルで解くだけではなく、もっと想像力を働かせる必要があります。




 上記の考え方からすると杭頭曲げモーメントの付加軸力を考慮しないのは力学的には説明がつきません。なぜ、杭頭曲げモーメントの付加軸力を考慮しないとの選択があるのか?


posted by 建築構造設計べんりねっと at 09:57| Comment(1) | TrackBack(0) | 構造設計メモ