2025年01月26日

現場からの質疑で意外に多い、梁スターラップの加工形状

 現場からの質疑で意外に多いのが梁スターラップの加工形状。代表的なものは下図ような形状ですが、梁スターラップの加工形状は他にも様々なものがあります。
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 梁スターラップの加工形状について、解説します。





スターラップ(あばら筋)、フープ(帯筋)の役割


 日本建築学会「鉄筋コンクリート造配筋指針・同解説」によるとスターラップ(あばら筋)、フープ(帯筋)の役割は以下となっています。

・柱や梁部材の軸方向鉄筋(主筋)に直交し、それらを囲むように配筋し、せん断力に対して作用させる。
・軸方向筋(主筋)の座屈を防止する。
・終局時においては囲まれるコアコンクリートを拘束し、部材の脆性的な破壊を防止する。


 鉄筋が溶接や機械式継手で閉鎖型になっていなければ、この性能を担保できますが、現場で型枠内に主筋をスターラップを組み合わせる梁についてはこのような方法は出来ません。よって、閉鎖型と同等の性能とできる加工形状とする必要があります。具体的には以下の2通りです。

・スタラップの末端を135°以上のフックで梁コンクリート断面内に折り曲げる。
・90°フックとし、スラブコンクリート断面で拘束する。


様々なスターラップ形状の解説


@135°フックによる閉鎖型
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 最もオーソドックスな加工形状です。鉄筋の重ね部分で双方を135°フックとし、梁断面内に折り曲げます。一般にはフックの向きを交互にしますが、これはコンクリートの充填性の向上、スターラップによる拘束効果の安定性を目的としたものです。フックを片側のみに寄せるのがダメであるとのことではありません。

A135°フックによるキャップタイ型
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 現場配筋の施工性を向上させるために上面のスターラップを分割し、135°フックで掛けます。

B片側135°、片側90°フックによるキャップタイ型
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 両方が135°フックであるとキャップタイを掛ける時に縦方向のスターラップを押し曲げて掛けることになります。これを改善するために片側90°とする形式です。先に135°側のフックを主筋に掛け、回転させるように90°フックを被せます。
 しかし、これには条件があります。90°フックでは鉄筋末端の拘束ができないので90°フックとする側はスラブが取り付いていることが必要です。

C両側90°フックによるキャップタイ型

 キャップタイのフックを両側90°とすることも可能です。当然、この場合は両側にスラブが取り付いていることが必要です。
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こんなスターラップ形状もある


D180°、135°フック型
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 スターラップの縦方向の鉄筋を180°、キャップタイを135°とする場合があります。梁幅が狭い場合、縦方向の鉄筋の135°フックが角から二つ目の鉄筋に干渉してしまうことがあります。このような場合、180°フックとすることで干渉を避けます。
 当然、135°よりも大きいため、問題ありません。また、スラブの取りつきによってはキャップタイのフックを90°とすることも構いません。

E重ね継手型
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 地中梁など梁せいが大きい場合、一度に鉄筋を組むのが難しい場合があります。このような時、スターラップの縦方向鉄筋の途中で重ね継手とします。



posted by 建築構造設計べんりねっと at 16:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 構造設計メモ

2024年08月04日

施工不具合対応マニュアル/構造躯体工事を作成する

 建築工事において、施工ミスとまでは言えないものの施工基準、施工公差(許容値)を超えてしまうことがあります。もちろん、これに対し、適切な対処を行えば施工ミスにはなりません。構造設計者も工事現場から対応について相談を受けることがあるでしょう。この対応方法は設計者、工事管理技術者が経験や技術的判断により、対応してきました。
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 このような施工不具合に対する対応方法をマニュアル化、基準化しようと考えた人、会社は少なくありません。しかし、このようなものを作成すると失敗を許容しているとの批判を受けてしまうこと、また、良心から作成を行ってきませんでした。考えようによっては、これらも技術です。建築構造設計べんりねっとでは構造躯体工事に絞り、施工不具合に対する対応マニュアルを作成しようと思います。



 どのようなものを作成するかの事例として、第一弾、以下を作成します。

鉄骨造アンカーボルト高さが低くなってしまった場合


 鉄骨造のアンカーボルトは通常、ダブルナットとします。そして、JASS6では「アンカーボルトの余長はねじ山が外に3山以上」となっています。
 このアンカーボルトの高さが予定よりも低くなり、ダブルナットとするとねじ山が外に3山以上が確保できない場合の対応方法を解説します。




アンカーボルトの基準は施行令第66条で「構造耐力上主要な部分である柱の脚部は、国土交通大臣が定める基準に従つたアンカーボルトによる緊結その他の構造方法により基礎に緊結しなければならない。」と定められています。国土交通大臣が定める基準とは告示1456号であり、「(露出柱脚にあっては)アンカーボルトには座金を用い、ナット部分の溶接、ナットの二重使用その他これらと同等以上の効力を有する戻り止めを施したものであること。」となっています。
 まず、柱脚の形式が根巻き形式柱脚、埋込み形式柱脚の場合はこの規定は対象外となります。これらの形式の柱脚の場合のアンカーボルトは建方用(コンクリート打設まで位置を保持する目的)なので、ダブルナットである必要はなく、3山以上確保の不要です。

 対応方法としては以下の2通りの方法があります。

@ナットを溶接する
 ダブルナット(ナットの二重使用)は告示にある通り、戻り止め(ナットの緩み止め)が目的です。そして、
告示ではナット部分の溶接も認められています。溶接する部分はナットと座金を溶接します。尚、溶接方法については明確な基準がありませんが、戻り止め(緩み止め)が目的ですので強固な溶接までは不要でしょう。

Aナットサイズを小さくする
 二つ目のナットを高さが小さいものに変える方法もあります。これは建築鉄骨構造技術支援協会(SASST)のホームページで紹介されています。
https://sasst.jp/qa/q6/q6-6.html

 アンカーボルトとしての強度を確保するナットは一つ目のナットであり、二つ目(上側)のナットは戻り止め措置です。よって、高さいの小さいナットを使用することで「ねじ山を外に3山以上確保」が出来れば、この方法もあります。

Bアンカーボルトをベースプレートに溶接する
 日本建築学会「鉄骨工事技術指針・工事現場施工編」ではアンカーボルトをベースプレートに溶接する方法も記載されています。ベースプレートに開先を取り、完全溶け込み溶接とする事になりますので現実的には難しいと考えます。




posted by 建築構造設計べんりねっと at 06:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 構造設計メモ

2024年05月18日

コンクリートひび割れ補修、エポキシ樹脂とは

 コンクリートにひび割れが入ってしまった時、補修方法として、エポキシ樹脂の注入が行われます。私も普通に“エポキシ樹脂”と言う言葉を使いますが、そもそも、エポキシ樹脂とは何か、良くわかっていない。そこで、エポキシ樹脂について調べてみた。

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エポキシ樹脂とはプラスチック


 エポキシ樹脂とは(エンジニアリング)プラスチックの1種です。

 分子中に“エポキシ基”と言う炭素2個と酸素1個の三員環からなる基をもつ構造であり、エポキシ樹脂と呼ばれます。尚、エンジニアリングプラスチックとは強度と耐熱性を高めたプラスチックの総称です。

 エポキシ樹脂は熱を加えると軟化して冷却すると硬化する熱可塑性を有しており、接着性が高いため、コンクリートのひび割れ補修に利用されます。

 物理は得意ですが、化学は苦手な構造屋であるので、意味がイマイチ分かりませんが、ようは樹脂状になっているプラスチックと言うことです。






強度はコンクリート以上


 コンクリートのひび割れに使用されるので、当然、強度が必要です。エポキシ樹脂は圧縮強度 115N/mm2、引張強度 86N/mm2程度と非常に高い強度を有しています。
 通常使用するコンクリートの設計基準強度は高くても60N/mm2程度なので、コンクリートよりも大きな強度があるものとなっています。
 よって、コンクリートの補修には問題ありません。




 ただし、エポキシ樹脂は建築基準法第37条の指定建築材料には指定されていません。よって、基本的には使えないものです。これは建築基準法が補修を行うことを前提に建物を作ることを考えていないためと考えられます。まあ、ひび割れが入っても補修をすれば良いではなく、品質の良いコンクリートを作りましょう。


posted by 建築構造設計べんりねっと at 11:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 構造設計メモ