2019年11月07日

構造の経済設計「一次設計の経済的な設計手順」

※本記事は改稿し、建築構造設計べんりねっとにて掲載しています。





 前回、大梁の経済的な断面算定方法の解説をしました。次は柱の断面算定及び経済的な設計手順について説明します。

 柱の断面算定ですが、基本は梁と同じです。断面サイズを上げるよりも鉄筋本数を増やすことを優先します。引張力が大きい場合は特にそうです。

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 構造設計の参考書では、一次設計は二次設計(保有水平耐力検討)を見越して行うとあります。確かに柱が弱く、保有耐力で塑性ヒンジが発生する状態では耐力も出ません。一次設計では柱耐力(断面、配筋)に余裕を持った設計が必要です。

 ですが、
あえて、二次設計(保有耐力計算)は考えずに一次設計(許容応力計算)をまとめることを勧めます。
 二次設計の状態を完璧に把握し、最適な設計が出来る突出した能力を持っている構造設計者なら、良いでしょう。しかし、普通の構造設計者では設計作業の効率は上がっても、コストに対して、最適な断面、配筋を設計するのは、この方法では困難です。
 まずは一次設計で最小限の断面、配筋を設定します。その為には一次設計がまとまるまで、一貫構造計算プログラムの保有耐力計算を行わないことです。
 
 次に一次設計における主架構の検討手順です。多くの構造設計者は以下順番で設計します。
@大梁の断面設定及び主筋の算定
A大梁のせん断設計(スタータップ算定、コンクリート強度設定)
B柱の断面設定及び主筋の算定
C柱のせん断設計(フープ算定、コンクリート強度設定)
D柱梁仕口部の検討(柱断面、コンクリート強度設定)
E耐震壁の設計

 私は経済的に構造設計するために以下の検討手順を勧めます。
@大梁の断面設定及び主筋の算定
A柱の断面設定及び主筋の算定
B柱梁仕口部の検討(柱断面、コンクリート強度設定)
C柱のせん断設計(フープ算定、コンクリート強度設定)
D大梁のせん断設計(スタータップ算定)

E耐震壁の設計




 理由はせん断設計(スターラップ、フープ、コンクリート強度)を無駄なく経済的に行うためです。コンクリート強度を上げることは、その層全体に影響を与えます。Fc24とFc27の材料差額は450円/㎥程度であり、面積当たりにすると0.23%のコストアップです。尚、Fc30からは高性能AE減水材の使用により、Fc27との差額は1,100円/㎥になり、面積当たりで0.57%のアップです。金額にすると先にあげた建物例では数十万円違う事になり、慎重に行うべきです。

 せん断設計が一番厳しいのは柱梁仕口部、次に柱です。コンクリート強度を上げる判断をするのは、ほとんどがこの段階です。先に大梁のスターラップを決め、後でコンクリート強度を上げるとなると無駄な配筋となってしまうのです。柱フープも同様です。

 最後に柱設計の補足です。各階同じ間取りのマンションなどで柱断面を上階に向かって、絞っていったが、PS、MBとの納まりで結局、増し打ちしていると言う事があります。断面を絞るためにコンクリート強度を上げている事があれば、逆に不経済です。よく意匠と打ち合わせを行い、断面設定をする事が重要です。

≪まとめ≫
●●柱も基本、鉄筋本数を増やすことを優先する。但し、意匠との納まりをよく確認し、不要な増し打ちがないように断面設定を行う。
●せん断設計は、大梁、柱の曲げ設計、柱梁仕口部の検討の後に行う。
●コンクリート強度を上げる判断は慎重に。特にFc27とFc30は大きく違う。



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2019年11月06日

構造の経済設計 「建築構造設計べんりねっとオリジナルプログラム」※おまけ

 『建築構造設計べんりねっと』にて、オリジナルの構造計算補助ツールを販売していますが、経済設計手法を取り入れているものがあります。




自沈層のあるSS試験結果からの地耐力計算

価格:800円 (税別) 累計販売実績:307本

 日本建築学会「小規模建築物基礎設計指針」に従ったスウェーデン式サウンディング試験からの地耐力計算のエクセルシートです。
 告示1113号第2項では基礎下2mの間にWsw1kN以下で2〜5mの間で0.5kN 以下で自沈する層が存在する場合、沈下の検討を行う事となっています。
 本計算シートはこの沈下計算を考慮し地耐力計算を行う事で経済的な設計が出来ます。

直交梁を考慮した木造地中梁計算

価格:500円 (税別) 累計販売実績:110本
 木造の地中梁計算において、直交梁を考慮して検討を行うExcel計算シートです。(2バターン登録)
 KIZUKURI-SUBの地中梁計算風のレイアウトになっています。引抜き力が大きくなる建物隅部の地中梁計算などにおいて、経済的な設計が出来ます。

鉛直・水平でスパンが違う耐風梁

 KIZUKURI Subでは扱いない鉛直・水平でスパンが違う耐風梁の設計です。耐風梁の途中で柱があり、鉛直方向と水平方向で支点位置が違う部分の耐風梁において、経済的な設計が出来ます。

耐震壁開口補強の設計(RC規準2010)

価格:500円 (税別) 累計販売実績:35本
 一貫構造計算プログラムでは耐震壁開口補強の設計がRC規準1999による計算となっているものがありますが、2010年版の設計方法の方が有利側の設計となることが多いと思います。

「靭性保証設計指針」によるカットオフ定着長

 日本建築学会「鉄筋コンクリート造建物の靭性保証耐震設計指針・同解説」及び 「2015年版 建築物の構造関係技術基準解説書」に準拠した梁主筋のカットオフ定着長 (付着)の検討です。
 RC規準1999による検討と本計算プログラムによる検討を使い分けることで経済的な 梁の設計ができます。

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2019年11月05日

構造の経済設計「大梁の断面算定方法」

 経済的な大梁の断面算定方法について、説明します。



 前々回、上部構造全体における型枠、鉄筋、コンクリートの金額の比較を行いました。同じように梁断面について、比較を行います。

梁断面.pngB✕D:550×850
上端筋:8-D29
下端筋:6-D29
STP:4-D13@200
腹 筋:2-D10
CON:Fc27

■梁断面における各工事の価格
梁数量.png

 上部構造全体では型枠工事の金額が最も大きかったですが、梁や柱については鉄筋の金額が一番大きくなります。では、断面算定でNGであった場合、鉄筋を増やすよりも梁せいを上げた方が経済的かと言うとそうではありません。

 まず、最初に確認が必要なのは、型枠数量は梁断面を上げても、そのまま増えてないと言う事です。下図に壁付の梁と壁なしの梁の断面を示します。
梁型枠.png

 梁幅を増やしても、スラブ型枠と相殺されるので梁底型枠は増えません。また、壁付きの場合は梁せいを上げてみ壁型枠と相殺されるので梁側型枠は増えません。なお、スラブ、壁と重なっている部分はコンクリート数量も増えません。

 以下にシミュレーションをしてみます。
ケース@:<壁なし梁>鉄筋本数を増やす。(上端筋 8-D29 → 9-D29)
ケースA:<壁なし梁>梁せいを上げる。(梁せい 850 → 900)
ケースB:<壁なし梁>梁幅を上げ、鉄筋本数を増やす。上端筋 8-D29 → 9-D29、梁幅 550 → 600
ケースC:<壁付き梁>梁せいを上げる。(梁せい 850 → 950)

梁比較.png

 ケース@はまだ、主筋が並ぶ余地がありますので、単純に主筋本数を増やす方法です。この断面、配筋で断面算定がNGとなる場合、まず、普通に行う事です。鉄筋量が増え、価格は2%アップ、耐力は13%アップします。

 ケースAは、梁せいを上げる方法です。型枠数量とスターラップ、コンクリートが増えます。価格は4%、耐力は6%アップします。

 ケースBは、主筋本数を増やすために梁幅も上げる方法です。型枠はスラブ型枠と相殺され、増えませんが、鉄筋、コンクリートが増え、価格は4%アップ、耐力は13%アップします。価格増はケースAと同じですが、耐力増はこちらの方が大きくなります。

 ここから、分かるように断面算定のNGを解消する場合、梁せいを上げるよりも梁幅を増やして、主筋本数を上げる方が経済的です。

 最後にケースCは、壁付きの梁において、梁せいを上げる方法です。型枠は壁型枠と相殺されるので増えません。若干のコンクリートとスターラップが伸びる分の鉄筋量は増えるのみです。価格増はケースA、Bと同等で耐力はケースBと同等です。

 壁付きの梁であれば、梁せいを上げる事が経済的となります。但し、梁せいは階高に影響することが多く、梁せいを上げたことで階高が上がってしまうのであれば、その階全体に影響し、コストも増えてしまいます。
 また、梁幅も無条件に上げる事もできません。梁幅を上げることでパイプスペース(PS)が押され、デッドスペースが増えてしまうようであれば、建物全体としての経済性は損なわれてしまいます。

 まとめると以下になります。


≪まとめ≫
●壁付の梁は階高、意匠、設備に影響しない範囲で梁せいは極力大きくとる。
●曲げ耐力を上げる場合は意匠、設備に影響しない範囲まで梁幅を上げ、鉄筋本数を増やす。
●基本は梁せいを上げるよりも鉄筋本数(梁幅)を増やすことを優先する。




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