2019年11月12日

構造の経済設計「基礎の設計」

※本記事は改稿し、建築構造設計べんりねっとにて掲載しています。

 経済的な基礎の設計方法について、考えてみます。基礎は構造体の中で最もコストに影響する部分です。単純な構造躯体数量のみではなく、土工事(掘削、埋戻し、残土処分)、山留工事などの仮設工事が非常に大きな影響を与えます。そして、高いのが杭です。直接基礎と杭基礎では建物全体に与えるコストも大きく変わります。
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 なぜ、基礎工事が高いかと言うと大型の(高額な)重機を使用するので、この重機の損料が大きいのです。
 経済設計を行うにあたり、難しいのは他の工事と違い、明確な単価が存在しない事です。理由としては施工条件(敷地の広さ、道路付け、市街地かどうか、地盤条件等)により、施工効率が大きく変わるため、重機の損料が変わるからです。
 本当のところを言うと価格が一番ざっくりな所がコストを把握するのが難しいのです。値引き額が他の工種に比べ、異常に大きい。それがコストを分からなくしている一番の理由です。杭業界は昔から、チャンピオン制(談合?)などがあります。今もある?

 そのような中でも経済設計の基本はあります。

 経済的な基礎の設計をするには、何より、基礎の根入れを少なくすることです。どれだけ高強度材料を使っても、基礎の根入れが小さく出来れば、コスト的には有利になります。

 基礎の根入れを決定するのは、支持層の深さ(直接基礎の場合)と地中梁せいです。直接基礎とするために根入れが深くなってしまうのは仕方ありませんので、そのケース以外の場合は、地中梁せいを出来るだけ、小さくすることを考えます。

 地中梁の応力としては、まず、上部構造からの応力(常時、地震時)があります。そして、地盤反力による応力(直接基礎)、杭偏心応力、杭頭応力がありますが、これらの付加応力の比率は非常に大きなウエイトを占めます。通常、50%か、それ以上になります。つまり、これら付加応力のコントロールにより、地中梁せいは、数十%レベルで変わります。
 以下に注意事項をまとめます。建物全体の架構計画に関わる内容となってしまいますが、基礎計画を考慮した上部構造の計画を行うことが経済設計に繋がります。




1.地盤反力による応力
 地盤反力による応力は地中梁スパンと負担反力により、決定されます。スパンの大きい地中梁に地盤反力を作用させないようにする事を考え、基礎計画を行います。単純にベタ基礎とせず、布基礎や多少、フーチングが大きくとも独立基礎も考えてみましょう。

2.杭偏心応力
 不要な杭偏心を行う人は居ないと思いますが、偏心応力の影響もかなり大きなものです。地中梁だけでなく、杭への負担も増えます。偏心が少ない架構計画を行う事が重要です。建物外周部だからと言って、全てを偏心させる必要もありません。建物外周部の基礎を柱面まで偏心させると掘削量が少なくなると言うコスト的なメリットがありますが、それにより、地中梁せいが大きくなってしまうのであれば、コストメリットはなくなります。

3.杭頭応力
 杭頭応力の地中梁への曲げ戻しの影響を小さくするのは、杭(杭頭曲げ応力の作用位置)を分散させることです。柱本数(=杭基礎箇所)を減らすとコストが減るとの考えを持っている方も多いと思いますが、地中梁(=基礎根入れ)を小さくするには逆効果です。むしろ、コストは上がります。

4.その他
 その他、注意事項を書きます。
・不要に基礎、地中梁下端レベルを揃えない。多少のレベル差であれば、基礎躯体工事を数回に分けることなく、施工は出来ます。不要に根切り量を増やさないことです。
・建物外周部に基礎が深くなる部分を作る計画を避ける。敷地境界が近い建物外周部に床付け面が深い部分を作ると山留高さが大きくなってしまいます。山留工事費が高くなってしまいます。EVシャフトや水槽などを設ける場合は注意しましょう。


 基礎設計、杭設計で経済的な設計を行うには少なくとも2通りの形式の比較検討を行うべきです。その為には見積りを取ることです。杭業者であれば、施工者(ゼネコン)が決まっていなくとも見積りを出してくれます。設計者(ゼネコン)が決まっている、付き合いがあるところがあれば、そこに相談するのが良いでしょう。


≪まとめ≫
●基礎の経済設計の基本は基礎の根入れを減らすこと。高強度材料を使用し、地中梁断面を小さくする。
●基礎計画は最低2通りは比較検討すること。




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2019年11月11日

構造の経済設計「経済性は構造の重要な性能」

※本記事は改稿し、建築構造設計べんりねっとにて掲載しています。

 構造設計の“品質”を考える上での要素として、安全性、耐久性、生産性、経済性、法適合があります。最近では環境性能も求められています。




 どれが欠けてもならない訳ですが、その優先順位はどうでしょうか?たぶん、法適合、つまり、各種の基準を守る事が第一優先で次に安全性、耐久性ではないでしょう。施工性、経済性(コスト)についてはどうでしょうか?「施工出来る方法を考えるのが施工者の仕事」、「コストを考えるのは積算の仕事、我々は基準に従い、最小限の構造設計をするだけだ。」と考えている人が多いのではないでしょうか。

 安全性(耐震性能)、耐久性、法適合(各種設計基準)については構造設計者なら、誰でも自分の設計を説明できるでしょう。施工性については多くの経験を積んだベテランの構造設計者であれば、「今まで、この方法で施工出来ている。」との実績から、判断、説明が出来ます。

 では、経済性(コスト)についてはどうでしょう。
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 意匠設計者やクライアント(施主)から、建物形状(=構造計画)の相談を受け、どちらが構造躯体数量(コスト)が多いかは判断が付くでしょう。
しかし、高い、安いだけでは意味がありません。意匠設計者、クライアント(施主)は、「この形状をやりたい。だが、コストも気になる。」と考えます。高いと言うのは、1万円なのか、100万円なのか。その金額に応じて、判断するのです。
 
 だって、そうですよね。私達が何か、物を買うときでも、店員さんにその違いを聞いて、金額を見て、購入するかどうか判断する訳です。「性能、デザインの差はこの通りです。金額は教えられません」で買いますか?

 建築の設計で言えば、「では、どれだけ、コストが違うかの比較を行うために2パターンの設計をします。それで積算してみましょう。期間は1か月掛かります。」でも良いのですが、概算でも即座に答えてくれる設計者の方が信頼されるでしょう。
 
 私達は芸術家ではなく、構造設計を仕事、ビジネスとしているのです。金額、コストは最も重要な要素です。自分が設計するもの、提案するものに対し、金額(コスト)を説明できるべきではないでしょうか。

 でないと、「気に入ったら、対価(設計料)を下さい。気に入らなければ対価(設計料)は不要です。」と言う芸術家になるか、ただ、労務を提供するだけの仕事になります。

 
 私達は構造設計をビジネスとして、考えるのであれば、経済性について、もっと考えるべきです。明らかな不経済設計を指摘され、「安全側なので問題ありません。」
などと答える人はビジネスをするものとして、論外です。経済設計を売りにする構造設計者、構造設計事務所であれば、構造躯体に関する価格は把握していましょう。


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2019年11月09日

構造の経済設計「構造設計におけるVE案とCD案の違い」

※本記事は改稿し、建築構造設計べんりねっとにて掲載しています。


『建築構造の経済設計』〜使える構造VE、コストダウン案 50選付き!
価 格:1,500円(税込)
販 売:Booth
決済方法:銀行振込、クレジットカード、コンビニ決済、他
発行年月:2021年4月

 本ページで掲載しました『建築構造の経済設計』を改稿、使える構造VE、コストダウン50選を追加し、全102ページにまとめました。
 使える構造VE、コストダウン案は具体的な金額を示しながらの実践的な手法であり、構造設計者のみならず、意匠設計者、工事施工者、デベロッパー・不動産会社関係者にも判る内容となっています。


VE案とCD案の違いは、一般的な説明だと以下のようになります。




 VEとは、「Value Engineering(バリューエンジニアリング)」の略で、性能や価値を下げずにコストを抑えること。
 CDとは、「Cost Down(コストダウン)」の略で、性能、価値が低下しても良いことを前提として、コストを下げる変更を行うこと。
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 さて、実際はどうでしょう?正しい意味でVE、CDが使われていますでしょうか?事例を考えてみます。

 CD案は性能、仕様を下げても良いのが前提なので、事例を上げるのは簡単です。
・耐震等級2で計画していたが、予算がオーバーした為、耐震等級1に変更した。
・設計基準で「望ましい」との表現になっている基準の準拠をやめる。

 では、VEは?
 構造に関するVEとして、考えられるのは、施工者側からの施工方法に関する変更提案や製品、資材の変更提案があります。
・うちの会社では、この施工方法の方が得意であり、コストが下がります。
・うちの会社では、こちらのメーカーの製品の方が安く入手出来ますのでコストが下がります。

では、構造設計段階でのVEとは、どのようなケースがあるだろうか?
 構造設計者が自分の設計、他者の設計に対し、性能、仕様を下げずにコストを下げる事は可能だろうか?それぞれの構造設計者の考えによるが、何らかの性能、仕様(安全率)を下げることになる。

 あるとすれば、明らかな無駄に対する変更のみであろう。

 意匠計画への変更提案により、コストを下げる方法も考えられるが、これも性能、仕様の低下か、明らかな無断が存在すると思われる。

 実際のVE、CDの使い分けは以下であろう。




1.ゼネコンが行うVE、CD。
 CD(コストダウン)案は請負金額を下げることに繋がる。一方、VE案は性能、仕様を下げないとの前提で、実は仕様を下げ、コストを下げている事が多い。仕様 、性能が上がる変更提案をVEとして行う事もあるが、請負金額を下げない提案であることが絶対である。

2.計画、設計段階のVE、CD。
 CDは構造設計者自らが仕様、性能を下げる提案を行うこと。

 VEは、構造設計を行った事務所と別の事務所が無駄な設計の排除と性能、仕様を下げる提案、検討を行うこと。つまり、自分の設計に対してはVEとは言わない。


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posted by 建築構造設計べんりねっと at 09:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 経済設計手法