2021年04月11日

保有耐力がギリギリは経済設計?

「断面、配筋多すぎないですか?」との指摘に
「保有耐力がギリギリとなっているので、これ以上落ちません。経済設計になっています。」と回答することはどうなのだろう?

ImageViewer12.png

 構造特性係数Dsが最小値で、全てのフレームで全ての梁にヒンジが発生している全体崩壊形となっている状態であれば、そうとも言えるでしょう。

 そうでない場合は自分の構造設計技術が低いと言ってるようなものです。






 保有耐力設計は構造設計者により、大きく結果が変わるものです。とんちんかんな補強、対応をすると無駄なコストが上がるだけです。
 一貫構造計算プログラムで解析を行えば、誰がやっても結果が同じと言う事はありません。

 一次設計で全ての部材の検定比がギリギリなのは経済設計と呼んでもよいが。



posted by 建築構造設計べんりねっと at 08:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 経済設計手法

2020年07月30日

柱を減らしても杭のコストは下がらない!

 建物の設計が終了し、コストが予定以上となった時、まず、標的にされるのが構造です。
 仕上げ、設備のグレードは落としたくない、面積を小さくするなんてことも行いたくない。
となると必ず、「構造のコストを下げられませんか?」となる。中でも土の中に埋まって見えない杭が一番の悪とされる。

 このような時、「杭の本数を減らしたいので柱を抜いて下さい。」と言われたことは構造設計者であれば、一度や二度ではないはず。そして、柱を減らし、スパン長を大きくしたモデルで再検討をさせられるが、杭のコストは下がらないとの結果に。

 時間と労力の大きな無駄である。追加の構造設計料金を貰えるなんて事もない。

 柱の本数を減らしても杭のコストは変わらないと説明をしても、「そんな事はないだろう。やってみないと分からない。」などと無駄なことをさせる人を無くすために説明します。




柱の本数を変えても建物の重量は変わらない。
 当たり前のことですが柱の本数を減らしても基本的に建物の重量は変わりません。柱がなくなる重量などは微々たるものです。むしろ、スパン長が大きくなり、梁サイズが上がる影響の方が大きいです。

 では、これを数字で説明します。

 下図のように同じ大きさの建物で柱が2本と3本の場合を考えます。建物の重量は6000kN(600t)とします。もちろん、両方同じです。
 この時、柱2本の建物は@、B通りの杭には、3000kNずつかかります。柱3本の場合はA通りは 3000kN、@、B通りは1500kNとなります。
杭支持力.png
 さて、杭の支持力は概ね、杭の断面積に比例します。つまり、柱2本の場合も3本の場合も必要な杭の断面積の合計は同じです。
 断面積に支持層の深さで決まる長さを乗じると杭の体積です。先に説明したとおり、場所打ち杭のコストは体積で決まるので、コストは変わらない、減らないと言うことになります。

 場所打ち杭の径は10cm刻みなので、完全に同じにはならないですが、柱の本数を減らし、スパン長を長くしたことによるコスト増の方が大きいでしょう。

 これがPHC杭などの既成杭などでも、同じです。既成杭の場所、基礎一ヶ所に対し、複数本の杭を配置します。例えば、杭一本当たりの支持力が1500kNの場合、柱2本の場合は@、B通りに2本ずつ。柱3本の場合はA通りに2本、@、B通りに1本ずつとなり、本数は変わりません。
では、どのようにしたら、杭のコストが落とせるか?



 柱本数を減らしても杭のコストは下がりませんだけでは、つまらないので杭のコストを下げるためのヒントを教えます。なお、意匠計画の調整も当然、必要です。

@ 荷重は少ないが杭が必要となっている部分を改善する。
 例えば、建物本体から離れた位置にある階段やエレベータ、1階のみのエントランス部分などは荷重は少ないものの杭を設ける必要があります。荷重が少ない=杭の性能を余らせている部分であり、非効率です。このような部分は位置を建物本体部分に近付け、片持ち梁などを使い、杭をなしと出来るようにしましょう。

A 短いスパンの部分を解消する。
 スパンが短い部分は杭への引抜力が大きくなります。それは地震力が集中すること、引抜力を抑える長期軸力が小さいためです。 
 杭は通常、支持層に1m貫入としますが、このように大きな引抜力が発生する場合、杭の周面摩擦力で抵抗する必要が出て来るため、周面摩擦確保のために支持層への杭の貫入をより長くする必要が出て来ます。
 地震力が集中する短いスパンは長期軸力が大きい建物内部にするか、平面形状を大きくし、短いスパンを解消する事が効果的です。
posted by 建築構造設計べんりねっと at 07:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 経済設計手法

2019年11月27日

天空率で設計すると杭のコストが上がる!?

平成14年の建築基準法改正で土地の有効利用を目的に天空率が導入されました。これは本当に効率の良い設計方法なのでしょうか?




構造屋の私が素人ながら、説明すると天空率とは、こんな事です。

従来の道路制限などによる絶対高さの制限から、同等の天空率とした場合、高さ制限が緩和されると言うものです。
具体的には、ある地点から、空が見える面積を同じにすれば、高さ制限は守らなくて良いと言うことです。

どうするかと言うと建物を敷地いっぱいに建てるのではなく、幅は狭め、上に伸ばすのです。これにより、容積が多く取れるので、土地利用としては、効率が良くなります。
天空.png
本当に効率が良いのか?

構造設計者なら、想像付くと思います。


そうです。天空率による設計で敷地に余裕があるに関わらず、塔状となる建物が増えているのです。

構造設計者でない方に説明します。建物の高さと幅の比が、4を越えると建物の転倒に対する検討が付加され、杭コストが大幅に増えるのです。

このような建物が増えています。





他にも容積を多くするための手法により、塔状建物となり、杭コストが増えている事例があります。

日影規制の対応です。

建物(幅、高さ)が大きくなると当然、日影時間が長くなります。そこでどうするかと言うと敷地を2分割して、別々の建物とし、日影規制をクリアしようとする人が居ます。

所有者は同じでも、建築基準法上は別となります。日影規制は、それぞれで適用されるので、対象となる裏のお宅の日影時間が長くなっても、「それは、隣の建物からの日影ですから、私は知りません。」がまかり通ります。
日影.png
建物形状としては、一つの建物を二棟に分け、上に伸ばすので、当然、塔状比があがります。杭コストが増える事になります。

このような計画は土地の有効利用なのですかね?使わない部分を多く残した建物が。
posted by 建築構造設計べんりねっと at 23:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 経済設計手法