2019年11月13日

構造の経済設計「杭の設計。場所打ちコンクリート杭の経済設計について考えてみる。」

 次は経済的な杭の設計方法について、考えてみます。前回、説明しました通り、構造体の中で最もコストに影響を与える部分です。そして、価格、単価の把握が一番難しい工種です。しかし、やりようによっては一番、設計により、コストの差が出る部分です。そして、大きくコストダウンをしようと思ったら、杭に手を付けないと出来ません。




 まず、どの工法の杭にするかです。場所打ちコンクリート杭、PHC杭、鋼管杭。それぞれに様々な施工方法、杭種があります。鋼管巻き、拡底、拡頭、節付き、拡大根固め。そして、メーカーによって、杭の形状や支持力式も違ったりします。
 
 はっきり言って、どの工法がどの杭の組み合わせが一番経済的となるか、判断するのは困難です。

 杭工事の知識に長けた人でも、杭施工会社の都合によって、大きくコストが変わってしまいます。見積り金額(グロス)から、ネット金額として、30%程度、数千万円の値引きは当たり前、そして、更に値引き交渉も可能です。かと言うと再検討を行い、杭数量を絞ったにもかかわらず、金額は値引き額で調整され、たいして変わらないと言う事もあります。
 基本的に杭工事の金額は、数量の積み重ねで決定されるのではなく、“施工に何日かかるから、いくら”との考えで決定されているのだと思います。

 やはり、ここも複数工法、複数メーカーの比較検討が必要です。そんなに難しくありません。軸力、水平力を数社に送り、検討、見積り依頼をするだけです。尚、「駆け引きするのは面倒なので、相見積もり一発でメーカーを決めます」と伝えましょう。

 このように価格の把握が難しい杭工事ですが、基本は数量を減らす事です。ここでは、場所打ちコンクリート杭の経済設計について、考えてみます。




 まず、場所打ちコンクリート杭の見積りを見てみましょう。これは私が今年、関わった3物件の見積を項目が比較しやすいようにまとめたものです。尚、通常、鉄筋・コンクリートの材料はゼネコンが提供するので、材料単価は杭施工業者が参考で入れたものです。また、これはグロス金額であり、ネット金額として、30%程度引かれたものが提示されています。実際の発注は更に値引きを行う事になります。

場所打ちコンクリート杭の見積り例

 杭の金額は何で決定してるかを把握するために各項目の比率の平均を以下に示します。
杭単価比.png

 これを見ると一番高いのは材料費で38%を占めています。次は残土、泥水処分費の16.4%です。これらの数量の単位は、㎥:杭の体積であり、合わせて、54.4%になります。
その次は機械・資材損料、労務費となり、合わせて、27.9%です。単位は施工日数です。掘削数量(=杭の体積)が増えると施工日数も増える事になります。

 どのような事かと言うと場所打ちコンクリート杭の金額に支配的にはるのは杭の体積であると言う事です。7割がたは体積です。

 杭本数が10%増え、杭の体積が10%減った場合を考えます。仮に機械資材・損料、労務費が杭の総長さに比例するとしても杭の体積が減れば、コストは下がる事になるのです。
また、材料費(コンクリート、鉄筋)の価格は明確です。杭施工会社の思惑で金額の上下はできません。

 これを理解すれば、経済的な場所打ちコンクリート杭を設計するには、どうすれば良いかは明確です。とにかく、杭の体積を減らす事です。そのためには以下を行います。

●拡頭、拡底を使用し、軸部の断面積を絞る。
 いまどき、拡頭、拡底による施工費はたいして、変わりません。とにかく、体積を少なくすることです。

●材料強度(コンクリート、鉄筋)を上げ、断面積を絞る。
 コンクリート強度を1ランク上げても、単価は1,000円/㎥、比率にして、1%程度です。施工費、残土・汚水処理費のコスト減の方が大きくなります。 

●評定工法を指定する。コンクリート強度は泥水中ではなく、空隙中とする。
 いまどき、場所打ちコンクリート杭は全て、評定工法です。評定工法を指定する事によるコスト増はありません。コンクリート強度を有利に出来るので杭体積を減らす事が出来ます。

 次に杭径、杭断面積A、杭周長ψ、断面係数Z、周長及び断面係数の断面積に対する比率の一覧を示します。
杭断面性能.png

 例えば、1400φと1000φ×2本、1700φと1200φ×2本は、ほぼ同じ断面積です。断面積が同等なので先端支持力、コストが同等であると仮定します。周長、断面係数はどうかと言うと、周長は2本とした方が多くなり、断面係数は2本よりも同じ面積の1本の方が大きくなります。つまり、引抜力が支配的な場合は2本打ちとした場合の方が有利になるという事です。ただし、水平力に対しては弱くなってしまうので注意が必要です。

 補足ですが、杭径を小さくすれば、小さな機械で施工が出来るので機械損料が安くなるとのメリットもあります。但し、これは杭施工業者の都合に左右されます。施工機械が現場で動いていても、会社に置いておいても、その会社としては損料が変わりません。杭、土工事の価格はこのような思惑で決まっているのです。


≪まとめ≫
●杭工法は複数工法の見積りを比較し、決定する。
●場所打ちコンクリート杭の経済設計をするには、とにかく体積を少なくする。
●引抜力が支配的な場合は2本打ちを検討する。



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2019年11月12日

構造の経済設計「基礎の設計」

 経済的な基礎の設計方法について、考えてみます。基礎は構造体の中で最もコストに影響する部分です。単純な構造躯体数量のみではなく、土工事(掘削、埋戻し、残土処分)、山留工事などの仮設工事が非常に大きな影響を与えます。そして、高いのが杭です。直接基礎と杭基礎では建物全体に与えるコストも大きく変わります。
土工事.png

 なぜ、基礎工事が高いかと言うと大型の(高額な)重機を使用するので、この重機の損料が大きいのです。
 経済設計を行うにあたり、難しいのは他の工事と違い、明確な単価が存在しない事です。理由としては施工条件(敷地の広さ、道路付け、市街地かどうか、地盤条件等)により、施工効率が大きく変わるため、重機の損料が変わるからです。
 本当のところを言うと価格が一番ざっくりな所がコストを把握するのが難しいのです。値引き額が他の工種に比べ、異常に大きい。それがコストを分からなくしている一番の理由です。杭業界は昔から、チャンピオン制(談合?)などがあります。今もある?

 そのような中でも経済設計の基本はあります。

 経済的な基礎の設計をするには、何より、基礎の根入れを少なくすることです。どれだけ高強度材料を使っても、基礎の根入れが小さく出来れば、コスト的には有利になります。

 基礎の根入れを決定するのは、支持層の深さ(直接基礎の場合)と地中梁せいです。直接基礎とするために根入れが深くなってしまうのは仕方ありませんので、そのケース以外の場合は、地中梁せいを出来るだけ、小さくすることを考えます。

 地中梁の応力としては、まず、上部構造からの応力(常時、地震時)があります。そして、地盤反力による応力(直接基礎)、杭偏心応力、杭頭応力がありますが、これらの付加応力の比率は非常に大きなウエイトを占めます。通常、50%か、それ以上になります。つまり、これら付加応力のコントロールにより、地中梁せいは、数十%レベルで変わります。
 以下に注意事項をまとめます。建物全体の架構計画に関わる内容となってしまいますが、基礎計画を考慮した上部構造の計画を行うことが経済設計に繋がります。




1.地盤反力による応力
 地盤反力による応力は地中梁スパンと負担反力により、決定されます。スパンの大きい地中梁に地盤反力を作用させないようにする事を考え、基礎計画を行います。単純にベタ基礎とせず、布基礎や多少、フーチングが大きくとも独立基礎も考えてみましょう。

2.杭偏心応力
 不要な杭偏心を行う人は居ないと思いますが、偏心応力の影響もかなり大きなものです。地中梁だけでなく、杭への負担も増えます。偏心が少ない架構計画を行う事が重要です。建物外周部だからと言って、全てを偏心させる必要もありません。建物外周部の基礎を柱面まで偏心させると掘削量が少なくなると言うコスト的なメリットがありますが、それにより、地中梁せいが大きくなってしまうのであれば、コストメリットはなくなります。

3.杭頭応力
 杭頭応力の地中梁への曲げ戻しの影響を小さくするのは、杭(杭頭曲げ応力の作用位置)を分散させることです。柱本数(=杭基礎箇所)を減らすとコストが減るとの考えを持っている方も多いと思いますが、地中梁(=基礎根入れ)を小さくするには逆効果です。むしろ、コストは上がります。

4.その他
 その他、注意事項を書きます。
・不要に基礎、地中梁下端レベルを揃えない。多少のレベル差であれば、基礎躯体工事を数回に分けることなく、施工は出来ます。不要に根切り量を増やさないことです。
・建物外周部に基礎が深くなる部分を作る計画を避ける。敷地境界が近い建物外周部に床付け面が深い部分を作ると山留高さが大きくなってしまいます。山留工事費が高くなってしまいます。EVシャフトや水槽などを設ける場合は注意しましょう。


 基礎設計、杭設計で経済的な設計を行うには少なくとも2通りの形式の比較検討を行うべきです。その為には見積りを取ることです。杭業者であれば、施工者(ゼネコン)が決まっていなくとも見積りを出してくれます。設計者(ゼネコン)が決まっている、付き合いがあるところがあれば、そこに相談するのが良いでしょう。


≪まとめ≫
●基礎の経済設計の基本は基礎の根入れを減らすこと。高強度材料を使用し、地中梁断面を小さくする。
●基礎計画は最低2通りは比較検討すること。




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2019年11月11日

構造の経済設計「経済性は構造の重要な性能」

 構造設計の“品質”を考える上での要素として、安全性、耐久性、生産性、経済性、法適合があります。最近では環境性能も求められています。




 どれが欠けてもならない訳ですが、その優先順位はどうでしょうか?たぶん、法適合、つまり、各種の基準を守る事が第一優先で次に安全性、耐久性ではないでしょう。施工性、経済性(コスト)についてはどうでしょうか?「施工出来る方法を考えるのが施工者の仕事」、「コストを考えるのは積算の仕事、我々は基準に従い、最小限の構造設計をするだけだ。」と考えている人が多いのではないでしょうか。

 安全性(耐震性能)、耐久性、法適合(各種設計基準)については構造設計者なら、誰でも自分の設計を説明できるでしょう。施工性については多くの経験を積んだベテランの構造設計者であれば、「今まで、この方法で施工出来ている。」との実績から、判断、説明が出来ます。

 では、経済性(コスト)についてはどうでしょう。
puffer (1).jpeg

 意匠設計者やクライアント(施主)から、建物形状(=構造計画)の相談を受け、どちらが構造躯体数量(コスト)が多いかは判断が付くでしょう。
しかし、高い、安いだけでは意味がありません。意匠設計者、クライアント(施主)は、「この形状をやりたい。だが、コストも気になる。」と考えます。高いと言うのは、1万円なのか、100万円なのか。その金額に応じて、判断するのです。
 
 だって、そうですよね。私達が何か、物を買うときでも、店員さんにその違いを聞いて、金額を見て、購入するかどうか判断する訳です。「性能、デザインの差はこの通りです。金額は教えられません」で買いますか?

 建築の設計で言えば、「では、どれだけ、コストが違うかの比較を行うために2パターンの設計をします。それで積算してみましょう。期間は1か月掛かります。」でも良いのですが、概算でも即座に答えてくれる設計者の方が信頼されるでしょう。
 
 私達は芸術家ではなく、構造設計を仕事、ビジネスとしているのです。金額、コストは最も重要な要素です。自分が設計するもの、提案するものに対し、金額(コスト)を説明できるべきではないでしょうか。

 でないと、「気に入ったら、対価(設計料)を下さい。気に入らなければ対価(設計料)は不要です。」と言う芸術家になるか、ただ、労務を提供するだけの仕事になります。

 
 私達は構造設計をビジネスとして、考えるのであれば、経済性について、もっと考えるべきです。明らかな不経済設計を指摘され、「安全側なので問題ありません。」
などと答える人はビジネスをするものとして、論外です。経済設計を売りにする構造設計者、構造設計事務所であれば、構造躯体に関する価格は把握していましょう。


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posted by 建築構造設計べんりねっと at 07:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 経済設計手法