ボイドスラブとは
構造設計者には説明するまでもありませんが、ボイドスラブ工法とは鋼管やEPSブロック(発泡スチロール)をスラブ内に仕込むことで重量を上げずにスラブ厚、強度を向上させる工法です。この事により、小梁なしの大空間を作る工法です。

マンションにおいて、通常の階高設定では小梁形が室内に出るため、小梁位置を考え、間取りを作成する必要がありますがこの工法を使用すると自由に間取りが出来ます。このようなメリットがある一方、コストは上がります。
尚、遮音性については向上するかどうかは微妙です。遮音性向上を目的としてボイドスラブを採用することは皆無です。

ボイドスラブを採用すると1uあたり5,000円程度コストアップ
以下の条件で在来スラブとボイドスラブのコスト試算(概算)をしました。コスト試算(概算)には『建築構造設計べんりねっと』が提供していますツール「構造コスト試算シート〜コストは建築構造の重要な性能」を利用しています。

結果は以下の通りです。

・スラブ単体の比較:5,266円/uアップ
・床組での比較(小梁含む):4,236円/uアップ
この差額は建物全体の総建設費に対し、2%程度となります。
これはスラブ単体、床組のみでのコスト比較ですがボイドスラブ工法を採用すると建物重量が増えます。概ね5%程度は重量が増えます。これは大梁、柱、基礎に対し、影響がないとは言えない範囲であり、大梁、柱、基礎においても多少のコストアップとなります。
これらを考慮するとボイドスラブを採用により1uあたり5,000円程度のコストアップになります。
ボイドスラブ採用のポイント
さて、この価格がどのような影響になるかを考えます。この差額がマンションの販売価格に転嫁されるとした場合、75uのマンションでは50万円ほど価格があがります。
※75u×0.5万円/u×1.1(経費)÷0.75(粗利率)
マンションの購入者は50万円の価値があると考えるでしょうか?同じ50万円を払うなら、住設機器のグレードアップをしたいと考えるでしょう。
販売価格に転嫁できないとすると販売側に対しては1uあたり5000円の利益減となります。
ボイドスラブを採用するのであれば、このメリットを生かした魅力的な間取りとすることが重要でしょう。
構造コストから現在の日本の問題点が見える
この試算で使用しました「構造コスト試算シート〜コストは建築構造の重要な性能」の登録単価を2022年6月版にて更新しました。

価格:1,500円
販売:Boothによるダウンロード販売
https://booth.pm/ja/items/3557561
7月の参議院選でも議論されていますが、現在の日本には以下の問題点があり、新聞、テレビ等でも多く報道されています。
・円安による物価高騰
・上がらない給料
以下は『建築構造の経済設計〜使える構造VE、コストダウン案 50選付き!』を販売した2021年4月、「構造コスト試算シート〜コストは建築構造の重要な性能」を販売した2022年1月および2022年6月の単価です。
●鉄筋
2021年4月:73,000(円/t)
2022年1月:89,000(円/t)
2022年6月:103,000(円/t)
●高強度せん断補強筋
2021年4月:210,000(円/t)
2022年1月:210,000(円/t)
2022年6月:215,000(円/t)
●鉄筋加工組立
2021年4月:48,000(円/t)
2022年1月:47,000(円/t)
2022年6月:48,000(円/t)
●型枠工事
2021年4月:4,800(円/u)
2022年1月:4,800(円/u)
2022年6月:4,950(円/u)
鉄筋は141%に高騰しています。しかし、高強度せん断補強筋(溶接閉鎖型加工)については販売価格が上昇していません。つまり、原材料の高騰分を販売価格に転嫁できていないのです。これでは企業は儲からない。
また、鉄筋加工組立、型枠工事などの工事費(人工費)も価格が上昇していません。構造設計料も変動していないでしょう。これでは給料が上がるはずがない。
構造コストから現在の日本の問題点が見えます。