2023年05月20日

工事監理は請け負わない方がいい

 工事監理業務に対し、思うことがあります。
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 岩手県の釜石市民体育館において、22年3月16日に発生した福島県沖地震、その後の余震で鉄骨屋根を支える小屋組のボルトが破断し、落下するとの被害が発生しました。市の事故調査委員会では原因は「施工ミス」とされました。しかし、責任は監理者にも及び、施工会社と設計・監理者を行ったパシフィックコンサルタンツにて、補修工事の費用を負担することになりました。

23年4月6日 岩手 NEWS WEB
https://www3.nhk.or.jp/lnews/morioka/20230406/6040017301.html

23年5月18日 日経クロステックの記事
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00154/01759/?n_cid=nbpnxt_twbn

 23年3月に発覚した大成建設による札幌市中央区で建設中の超高層ビル「札幌北1西5計画」の施工不良について、工事監理者であった久米設計は自社には責任がないのと見解を出しました。
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00154/01722/

 これはどうでしょうか?




 確かに工事監理者は現場に常駐し、全数チェックを行うことは出来ないでしょう。しかし、発注者であるNTT都市開発の担当者はこれに気付いた。
 それでは工事監理を発注する意味がありません。結果として、発見できなかった久米設計にも責任があるのではないでしょうか。このケースにおいては大成建設が再工事の費用負担の一部でも久米設計に請求するなど、恥知らずな事はしないですが、久米設計に対する信頼は低下しています。

 少し前の事ですが、レオパレス社による施工不良問題でも建築士資格の剥奪などの処分は工事監理者に対してのみであり、施工者(工事部門)に対する処分は一切ありません。



 心ある構造設計者は確かな品質を確保するために工事監理を含まない構造設計の依頼は受けない人も居ます。構造設計料に対し、工事監理の比率は低いものでしょう。サービスのように思っている発注者も居るでしょう。

 このように考えると工事監理はリスクの方が圧倒的に大きいように感じます。他社の構造設計の工事監理だけを行う業務などは尚更です。



posted by 建築構造設計べんりねっと at 20:01| Comment(0) | TrackBack(0) | コラム

2023年03月25日

大成建設の施工不良問題、構造設計はどうすべきか?

 大成建設が札幌市中央区で施工している26階建ての超高層ビルの施工不良問題がニュースになっています。この施工不良に対し、計測値などを改ざんし、工事監理者や発注者に報告していたとのこと。この問題により、大成建設は取締役と執行役員の2人が辞任、15階まで立ち上がった地上部分全体と地下の一部を再施工することとなりました。
 構造は構造種別は鉄骨造、SRC造で制振構造を採用しています。

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鉄骨の傾斜について


 問題となった施工不良とは鉄骨の建て方(柱の倒れ)精度です。柱754ヶ所のち、77ヶ所でJASS6許容値(限界許容差)を平均4mm、最大で21mm超えていました。

柱の倒れのJASS6許容値
管理許容差:柱長さの1/1000 かつ 10mm 以下
限界許容差:柱長さの1/700 かつ 15mm 以下


 この建物は26階で高さ116mなので階高は平均で4.46mです。限界許容差を21mm超えていると言う事は36mmとなり、傾斜角は1/124です。建物全体の傾斜ではないものの、構造設計者の感覚からするとこの値は許容できるものではありません。





 この現場については施工管理がずさんであったこともあったのでしょう。建て方時期の差による鉄骨の熱膨張・収縮もあったかもしれません。鉄の熱膨張係数は11.7μmです。温度が20℃変わり、梁の長さが10mとすると23mm長さが変わってしまいます。これは柱の倒れにも影響します。

 もちろん、施工記録の改ざん、虚偽報告などは論外です。

スラブ厚の不足、どうすべきか


 スラブ厚が不足している箇所もあったとのことです。こちらは570ヶ所のうち、245ヶ所が平均で6mm、最大で14mm薄くなっていました。再施工前提でコア抜きをして、計測したのかどうか分かりませんが、施工者にとっては厳しい話です。

 設計スラブ厚が200mmとした場合、型枠(デッキ)もその寸法とします。コンクリート打設にはレベルを測定しながら、左官屋さんがコンクリートを均しますが、どんなに腕の良い左官屋さんでもピッタリと施工する事は出来ません。10mm、20mmの誤差は出ます。

 では確実にスラブ厚を確保するために20mm増し打ちして、施工して良いかと構造設計者に聞いても、「荷重が増えるから、ダメです。」の答えでしょう。
 設計段階で施工誤差を考慮した荷重設定をすべきなのでしょうか?

JASS6が契約内容?


 ニュース記事によると「日本建築学会の建築工事標準仕様書(JASS6)に基づき契約で定めた限界許容差を超えており」とあります。契約書にはJASS6に準拠と
記載されていたのでしょうか。日本建築学会の基準には“望ましい”と表現されているものもあり、全てを準拠するのも難しい場合もあるでしょう。

 設計契約においても、JASS5、JASS6準拠と謳われると厳しいものがあるかもしれません。あとで建築基準法には適合しているものの、契約内容に準拠していない部分があるとして、構造設計者が訴えられることも考えられます。

 品質については年々、厳しくなってきています。大きな仕事はリスクも大きいものとなっています。



posted by 建築構造設計べんりねっと at 12:34| Comment(1) | TrackBack(0) | コラム

2023年02月18日

インフレ、物価高!構造設計事務所の給料は上がるか?

 インフレ、物価高が進む中、政府から賃上げ要請が出されています。大企業各社においては春闘が活発になってきました。しかし、中小企業においては原材料高騰の影響で十分な利益が上げられず、賃上げに対し、無い袖は振れない状態です。
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では建築設計事務所、構造設計事務所はどうでしょうか?構造設計事務所の給与の元のなるのは言うまでもなく、設計料です。設計料が上がらないと所員の給与も上がりません。





公共工事の設計料上昇は期待できる


 国土交通省は2月14日、公共事業の積算に用いる設計業務委託等技術者単価を発表しました。設計業務は7.1%の上昇となっています。
https://www.decn.co.jp/?p=150253

 公共工事の設計については設計料が上がるでしょう。入札が伴うものもありますが、最低制限価格が上がります。政府が賃上げを要請する中、無理な金額を押し付けることは出来ません。

民間工事は。。。


 では民間工事の設計はどうでしょうか。

 構造設計事務所のクライアントの一つであるゼネコン、住宅メーカーは売上は増加しているのもの、資材高騰分を販売価格に転嫁出来ておらず、厳しい状況です。ここも無い袖は振れない状態です。当然、外注設計料を抑えることを考えます。

 では、デベロッパー等はどうかと言うと、経済状況に関わらず、常にコストダウンを厳しく、要求します。ここも期待が出来ません。

 政府がいくら賃上げ要請をしても、大企業に対し、下請け事業者からの値上げ要望に応じるようにとの指導を出しても変わらないでしょう。設計事務所のように原材料を仕入れる事がない業種は値上げ交渉が難しいものとなっています。

設計料を上げるには。チャンスは2025年


 日本は長くデフレが続き、給料は30年以上、変わっていないと言われています。当然、建築の設計料の変化がありません。但し、構造設計料については2005年に発生した耐震偽装事件、2007年の建築基準法改正による業務量の増加、構造設計事務所の不足により、構造設計料が高騰しました。以降はまた、変化がありません。



 技術者である構造設計者はネゴシエーションは得意でなく、価格交渉も十分に行っていないでしょう。特に長い付き合いのあるクライアントに対しては単価が変わっていないと思います。せいぜい、気が付かれない程度に少しずつ上げる程度です。

 ではどうすれば良いか!

 一つのチャンスは2025年に予定されている建築基準法改正です。

 4号特例が縮小され、構造設計業務が増えます。もちろん、メインは木造です。しかし、木造の業務が増えることで非木造の建物も少なからず、影響を受けます。
 
 クライアントは構造設計を受託してくれる構造設計事務所を探すのに苦労する事になり、今までに付き合いのない事務所にも声を掛ける事になります。この時に思い切って、高い単価、設計料を提示する事が重要です。法改正の直後においては特に混乱し、発注側も受けざるを得ません。以降はこの単価が基準になり、安定した売上を得ることが出来ます。当然、設計内容は十分な品質のものとする必要があります。





 インフレ、物価高がまだ続くと思いますが、それまでは我慢です。2025年はその後10年程度を見据えた値上げをしましょう。
posted by 建築構造設計べんりねっと at 10:42| Comment(0) | TrackBack(0) | コラム