2024年02月17日

合理化と見直し

 建築基準法など法律の改正に対する説明の時に使われる言葉の中で気になっているものがあります。
 それは、合理化見直しです。




 合理化を広辞苑で調べると「無駄を省き、能率的に目的が達成されるようにすること。」私のイメージもこれである。つまり、それまでが合理的でなかったのである。合理的とは「道理や論理にかなっているさま。」である。
 令和4年6月に公布された改正建築基準法でも、この言葉が以下に使われています。

『確認審査対象の見直しに伴う提出請図書等の合理化

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 法施行後、延べ面積200〜300m2以下の建物は審査省略規定(現4号特例)の対象から外れ、従来の仕様規定の確認(壁量計算など)の審査が行われることになります。現状の規定では構造図面が必要になりますが、これを省略するとの案です。

 これを合理化と呼ぶのは違和感があります。これは明らかに緩和です。もっと、わかりやすく言うと基準が緩くなった。

 合理化の意味について、もっと調べると広辞苑には「もっともらしく理由づけ、正当化すること。」「欲求が満足されなかった時に、その理由を無意識的に正当化して自我が傷つくのを防ぐこと。防衛機制の一つ。」

 この意味だと、しっくりする。



 4号特例の縮小を行った背景としては、審査省略制度(4号特例)を活用した多数の住宅で不適切な設計・工事監理が行われ、構造強度不足が明らかになる事案が断続的に発生していることがありました。
 しかし、日本の建築確認のうち、77%を締める4号建築物で構造審査が一斉に実施される事は申請者側も審査側も大きな負担となります。おそらく、建築行政の混乱が生じるでしょう。よって、このような緩和策が検討されています。緩和策と呼ぶより、品質を確保するための4号特例縮小の骨抜きです。

 まさに「もっともらしく理由づけ、正当化すること。防衛機制」です。この意味だと理解が出来ます。合理化と言う言葉を使う人は正当化するために、もっともらしい理由づけをしようとしている人となります。

 もう一つ違和感を覚えるのは見直しです。

 断熱材や省エネ設備の設置といった省エネ化に伴って、建築物が重量化している。壁量が実態に合わなくなってきており、地震時に倒壊リスクがあるとの背景より、壁量規定の強化が行われますが、『仕様の実況に応じた必要壁量の算定方法への見直しと説明されています。これについては分かりやすく、強化で良いと思います。
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 現状の壁量規定では建物の安全性は保てない事が指摘されているのです。強化と言う言葉を使った方がより強く、訴えられるはずです。
 ではなぜ、強化ではなく、見直しなのか?それは過去を正当化し、批判を避けるためでしょうか。

 これらのように、はっきりしない表現を使う人は政治家、役人だけでなく、会社員でも使う人が居ます。このような使い方をする人が多くなってきた事により、本来の意味と違う説明が辞書に載るようになったのでしょう。




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2024年02月04日

能登半島地震は2025年建築基準法改正(耐震性強化)に影響するか?

 令和6年元旦に発生した能登半島地震。約5万棟の住宅被害が発生しており、報道では原因として、耐震化率の低さが指摘されています。
 この“耐震化”とは昭和56年(1981年)に改正された新耐震設計法で設計された建物と報道されています。尚、石川県輪島市と珠洲市の住宅耐震化率はそれぞれ約45%、約51%であったとのことです。
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 この新耐震設計法では木造住宅(4号建築物)の耐震性の検討方法は施行令46条による壁量計算にて、安全性の確認を行うこととなっています。具体的には屋根の仕様(重い屋根、軽い屋根)および階数に応じた必要壁量を確認します。
 耐震性とは建物の重量に対する地震力(地震動による慣性力)と建物強度の比ですが、建物重量が重い屋根、軽い屋根の区分のみで定めらています。





 令和4年6月13日、「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律案」の関連法案として、4号特例縮小法案(建築基準法改正)が可決、17日に公布されました。
 この中では「断熱材や省エネ設備の設置といった省エネ化に伴って、建築物が重量化している。壁量が実態に合わなくなってきており、地震時に倒壊リスクがある。」との実状より、壁量規定(耐震性)の強化が盛り込まれています。そして、その内容について、建築確認で審査が行われることになります。



 この法改正は建築業界に多くの影響を与えるため、3年の準備期間が設けられ、現在、関連法案の検討、整備が進められています。
 しかし、検討を進めるにあたり、建築基準法改正の対応が困難である事が分かり、様々な緩和規定の案が出されています。

 12月11日、国土交通省より、壁量等の基準の見直し(案)のパブリックコメントが出されましたが、その中では「新基準の円滑施行の観点から1年程度の間、現行の基準での検証も可能とする経過措置を設けることを検討している。」つまり、壁量規定(耐震性)の強化の先送りです。

 耐震性を確認する上で基本となる建物重量が省エネ化に伴う重量化していることにより、現行基準では安全ではないと判断したはずです。

 そして、令和6年元旦には能登半島地震で多くの住宅被害が発生しました。この経過措置案(先送り案)にも影響すると考えます。今後の動向に注目です。





 尚、この改正建築基準法の施行(適用)は2025年4月1日以降に着工したものとなっています。間違いなく、多くの建築会社は3月31日までに駆け込み着工を行います。この建物は耐震性の不足、4月1日になれば、建築基準法に対応しないものとして、既存不適格との扱いになりますので住宅を購入する方も注意が必要です。




posted by 建築構造設計べんりねっと at 09:27| Comment(0) | TrackBack(0) | コラム

2023年12月29日

構造設計、2023年を振り返る

 今年も残すところ、あと3日。構造設計業界の2023年を振り返ってみたいと思います。

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ゼネコン品質問題


 今年は建設業界における大きな事件は多くはありませんでした。そんな中でも大きなインパクトを与えたのが、大成建設による札幌市中央区で施工している26階建て超高層ビルの施工不良問題です。この施工不良に対し、計測値などを改ざんし、工事監理者や発注者に報告していたとのこと。この問題により、大成建設は取締役と執行役員の2人が辞任、15階まで立ち上がった地上部分全体と地下の一部を再施工することとなりました。





 その施工不良とは鉄骨の建方精度がJASS6の基準に適合しない箇所があった。そして、JASS6に準拠することが契約書に謳われており、契約違反とされました。

 他の建設会社でもデベロッパーによる過剰品質の要求が問題になっている事例があります。
 今後、設計契約書にRC規準を準拠と書かれ、少しでも適合しない箇所があると設計ミス、契約違反と扱われ、最悪は賠償責任を求められる可能性もありますので注意が必要です。

Chat GTP、AI


 今年も話題になったのがIT系の進歩。中でも生成AIのChat GTPはビジネス業界でその活用方法について大いな議論を巻き起こしました。

 生成AIのビジネスにおける一般的な活用方法としてはプログラムコードを自動で作る、企画書を作る、画像(イラスト)を作るなどがあります。残念ながら、構造設計での活用例は見当たりません。生成AIへの命令は現状は文章ですので我々が求めることを説明するのが困難だかでしょうか。

 ですが、ゼネコン各社は従来より開発を行っていた構造設計AIに関するニュースリリースを発表しています。中でも一番、生成AIに近いのは清水建設の「SYMPREST」です。これはプランを与えると自動的に構造計画を生成するものです。まだ、精度は余り良くなさそうですが、今後に期待です。




2025建築基準法改正


 令和4年6月13日に公布された改正建築基準法。構造では木造4号特例の縮小、構造計算対象の拡大となりました。また、壁量規定などの強化も予定されています。これらは三年目施行となっており、一年半が経ちました。
 今年における新しい情報としては11月の改正制度説明会、12月の施行令のパブリックコメントが出されました。その内容はと言う4号特例縮小を骨抜きにする内容でした。

  • 構造図面の添付は不要とし、仕様書を添付
  • 壁量規定の強化等は実質一年延期


 国土交通省としては申請側も審査側も対応出来ないと判断したのでしょう。

 一年延期をして状況は変わりますでしょうか?過去のように無期限の延期とされる可能性もあります。法改正のために積極的に人員を増加した会社がバカを見る結果になるのでしょうか。
 木造構造設計の需要拡大による構造設計料の上昇も期待できないと考えられます。

インフレ、物価高


 2023年はインフレ、物価高が大きく進み、私達の生活に大きな影響を与えました。では、構造設計料が上がっているかと言うと横ばいです。
 構造設計事務所のクライアントの一つであるゼネコンが大幅減益であるためです。
 このような状況であれば、当然、コスト・経費は抑えたいとなります。構造設計料も上がらない状況となっています。円安による原材料価格高騰も減益の原因の一つとなっています。





 一つ良かった事としては、2023年は大きな災害が無かったことです。私達、構造設計者が作り出す物は地震がないとその性能を発揮しません。しかし、何もないのが一番です。

 さて、2024年は構造設計者にとって、どのような年になるのでしょうか。


posted by 建築構造設計べんりねっと at 18:43| Comment(0) | TrackBack(0) | コラム