では地盤についてはどうでしょうか。近年の基礎設計について疑問に思っていることがあります。
多層地盤の地盤バネ評価を扱えるプログラムの登場
2008年、ユニオンシステムの構造計算プログラムに基礎設計支援ソフトウェアBF1がラインナップに加わりました。このソフトでは杭の水平力検討において、多層地盤における地盤バネを評価出来ます。その他のメーカーもほぼ同じ時期に同様のソフトウェアをリリースしています。
従来、杭の水平抵抗検討における応力解析は一様地盤中の杭を対象とした検討方法(Y.Changの計算法)としており、側方地盤の評価(地盤変形係数)は設計者が地盤調査結果より設定していました。杭の水平抵抗に影響を及ぼす深度の地盤強度が一様でない場合は検討が複数の地盤評価が必要になるなど難しい部分がありました。このような地盤において、多層地盤における地盤バネとして扱えるソフトは非常に便利なものです。

連携するソフトSoilBaseにより、地盤調査結果(N値)をそのまま、ソフトに入力することが出来ます。
では、これで精度が向上し、より適正な基礎設計が出来るようになったのでしょうか?
地盤は土質区分ごとの評価を考える!
地盤調査によるボーリング柱状図には土質区分が表記されています。土質区分は多岐にわたった種類がありますが設計に使用するのは“砂質土か粘性土か”とN値だけと言うのが多くの構造設計者の実状ではないでしょうか。
では何故、このように細かく土質区分を表記するかと言うと地盤調査会社が基礎設計に必要な情報を設計者に伝達するためです。
一つの地層も数百年、数千年をかけて形成されます。同じ地層でも厳密には異なる状態の部分がある事もありますがこれを基礎設計を行うために同じ性質を持つものとして、工学的に分類したものが土質区分です。従って、設計者も地盤調査結果からの土質区分ごとの評価を考える必要があります。
地盤はバラツキがあることを理解する!
下図のような地盤があります。同じ礫混じりシルト層で深度5mがN値5、6mがN値15、7mがN値7となっています。

このデータを見て、深度6m付近は地盤が強くなっているとの判断をするのは不適切である事が多く、地盤強度のバラツキと考える事が妥当であることが殆どです。
同じ敷地内で行った複数本のボーリングデータを比較すれば、同じ深度でも違ったN値となる場合も多くあり、バラツキと考える事が妥当と分かると思います。
そもそも、工業製品とは違い、地盤はバラツキが多いものです。また、地盤調査の精度の問題もあります。礫に当たるなどにより、標準貫入試験の値が大きく出てしまう場合がある事も容易に考えられます。日本建築学会「建築基礎設計のための地盤調査計画指針」では同じ地層でN値が2倍以上の差がある場合は地盤調査の精度に問題があると書かれています。
その層(土質区分)の評価を最小値とするのか、平均値とするのか、最小値の2倍を超える値を削除した平均値とするのかは各設計者の判断となります。
基礎設計においては地盤のモデル化が必要!
では上記の例の地盤において、基礎設計支援ソフトウェアBF1を使用し、杭の水平抵抗の検討を行う場合、
どのように行うかと言うと多くの構造設計者は地盤調査のボーリング柱状図に忠実に土質区分、N値を入力します。
深度6m付近がたまたま礫当たりにより、大きなN値が出たとするとこの検討は妥当ではなく、危険側の検討となっています。中には埋土層をそのまま、入力している事例も見受けられます。
このようなソフトを使用する場合においても、各土質区分(地層)ごとの評価を行い、入力することが必要です。
従来の一様地盤中の杭を対象とした検討方法(Y.Changの計算法)の場合、構造設計者はこの地盤のモデル化を考える必要がありました。しかし、多層地盤における地盤バネ評価が出来るソフトの登場により、このような検討が行われなくなりました。中には地盤調査結果通りに入力することがより正解に近づくと考える構造設計者も居ます。
基礎設計においては地盤のモデル化が必要です。