2022年07月16日

杭頭曲げモーメントの付加軸力は考慮不要?!A〜本当に力学的に正しい?

 杭頭曲げモーメントの付加軸力は考慮について引き続き考えます。考慮が必要と言う人の理由は「力学的に考慮するのが正しい。考慮しないと釣り合いが取れなくなる。」です。
 広島県 県内構造関係規定取扱方針においても、杭の地震時設計軸力に杭頭曲げ戻しモーメントによる付加軸力考慮の理由は「地中梁の設計において、杭頭曲げ戻しモーメントを考慮することとする以上、支点反力は釣り合わせる必要があるため」となっています。

 これは本当でしょうか?




杭頭曲げモーメント付加軸力の力学的妥当性


 下図のように1層1スパンで先端をピン支点とした杭基礎モデルを考えます。ここでは計算を簡単にするために地盤の水平バネは考慮しないものとします。上部構造の層せん断力は100kN、杭部分の層せん断力は150kNとし、上部架構の部材剛性は柱の反曲点が柱中央にあるものとします。
モデル1.png

 まず、通常の上部構造と杭分離モデルでの杭反力を求めます。
 柱の曲げモーメント(M1、M2)は柱頭部、柱脚部とも75kN・m、杭頭部の曲げモーメント(M3)は225kN・mとなります。
 M1、M2 = 100kN/2×3.0m/2 = 75kN・m
 M3 = 150kN・m×2/3.0m = 225kN・m

 杭頭曲げモーメントは地中梁のみで処理するため、大梁の曲げモーメント(M4)は75kN・m、地中梁の曲げモーメント(M5)は300kN・mとなります。
 M5 = 75kN・m + 225kN・m = 300kN・m

 大梁及び地中梁からのせん断力が杭反力125kNとなります。
 N = 75kN・m×2/6.0m + 300kN・m×2/6.0m = 125kN



次に上部構造と杭を一体としたモデルで杭反力を求めます。
 柱脚部節点においては杭分の剛性が増えるため、反曲点が下がります。柱の曲げモーメントを柱頭部 50kN・m、柱脚部100kN・mと仮定します。杭頭曲げモーメントは変わらず、225kN・mです。
 大梁の曲げモーメント(M4)は50kN・m、地中梁の曲げモーメント(M5)は325kN・mとなり、この時の杭反力も125kNとなります。
N = 50kN・m×2/6.0m + 325kN・m×2/6.0m = 125kN

 これが杭頭曲げモーメントの付加軸力考慮必要派の「力学的に正しい。釣り合いが保てる。」です。

 下図のように多スパンの場合を考えます。3箇所の杭が同じ杭径とすると分離モデルによる杭頭固定での検討では3箇所の杭の負担水平力は同じになります。しかし、一体モデルで考えると力学的にはQ2>Q1、Q3となるはずです。つまり、側柱の杭は実状よりも負担水平力、杭頭固定曲げモーメント及び付加軸力を大きく考慮している事になります。
多スパン.png

なぜ、地中梁だけに曲げ戻す?


 さて、ここで一つ問題があります。上部-杭分離モデルで杭頭曲げモーメントを曲げ戻す際、地中梁だけに曲げ戻していることです。力学的な正しさであれば、柱にもその剛性分で曲げ戻す必要があります。上部-杭一体モデルにおいても柱脚部曲げモーメントが増えることが考えれます。

 なぜ、地中梁だけに曲げ戻すかの理由ですが、計算が煩雑になるからです。

 尚、杭頭曲げモーメントを柱脚部にも曲げ戻すことより、地中梁応力は減少しますが、上部架構の梁応力が増えるため、付加軸力は変わりません。
 日本建築センター『構造計算適合性判定を踏まえた建築物の構造設計実務のポイント』では「この節点に取り付く柱の柱脚曲げモーメントが過少になっていないかは別途検討するのが望ましいと考えられます。」と書かれています。

杭頭曲げモーメントを基礎梁芯まで曲げ戻すことは不要


 一般には杭頭モーメントを基礎梁に曲げ戻す際、杭頭位置から基礎梁芯までの距離に杭負担せん断力を乗じた値を加算します。これも”力学的正しさ?釣り合い?”と言われていますが、日本建築センター『構造計算適合性判定を踏まえた建築物の構造設計実務のポイント』に記載の通り、必ずしも不要です。

 そもそも、杭の応力計算はどの位置で行っているのかと言う問題があります。基礎梁芯位置と考えてもおかしくはありません。また、実際は大きさのある部材を線材に置換しているため、発生する応力であり、このような釣り合いを求めることは不要です。
 平成19年の建築基準法改正では“整合性”について強化され、建築確認において、このような力学的整合性?に対する指摘が増えました。例えば、鉄骨造水平ブレースのゲージラインが柱梁芯からずれている事に対する付加応力などもそうです。完全な線材部材であれば、水平ブレースは節点に取り付くべきです。しかし、実際は部材の大きさがあり、ボルトなどの接合部もあります。どのように接合しても何処かには多少の付加応力が発生します。どの部分を重要視するかの問題です。これを無理やりに柱梁芯に合わせることで納得したり、簡単な線材モデルで解くだけではなく、もっと想像力を働かせる必要があります。




 上記の考え方からすると杭頭曲げモーメントの付加軸力を考慮しないのは力学的には説明がつきません。なぜ、杭頭曲げモーメントの付加軸力を考慮しないとの選択があるのか?


posted by 建築構造設計べんりねっと at 09:57| Comment(1) | TrackBack(0) | 構造設計メモ
この記事へのコメント
> なぜ、杭頭曲げモーメントの付加軸力を考慮しないとの選択があるのか?

次回この答えが明らかになるのでしょうか?ミステリーの解答編のように、今から楽しみです。
Posted by at 2022年07月17日 04:08
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