建築構造設計べんりねっとの掲示板『建築構造設計会議室』においても今までに多くの議論があった杭頭曲げモーメントによる付加軸力の考慮。
考慮不要派には明確な理由がない一方、考慮必要派も「やらなくて良い理由はない。」と言う感じである。事実、杭頭曲げモーメントを考慮しないでも確認申請、適判が通ることは多数ある。
杭頭曲げモーメントの付加軸力について再度、考えてみる。
杭頭曲げモーメントの付加軸力とは
下図の架構において、左→右方向の水平加力時を考えます。

A通り、B通りの支点(杭)には上部架構より、それぞれ、R1、R2の反力が発生します。杭の設計は分離モデルにて、上部架構とは別で行い、杭頭部には杭頭曲げモーメントM1、M2及びせん断力のQ1、Q2が発生します。この杭頭曲げモーメントを上部架構に曲げ戻します。
上部架構は部材芯で線材置換した構造モデルであり、杭頭曲げモーメントは杭頭部での応力であるため、杭頭部に発生しているせん断力に杭頭から地中梁芯までの距離 hを乗じた値を加算した応力が地中梁芯での曲げモーメントになります。
M1'=M1+Q1・h、M2'=M2+Q2・h
地中梁はこの曲げ戻しを加算して設計します。この時、曲げ戻しによるせん断力Q'が支点A、Bに鉛直反力として加算されます。これが杭頭曲げモーメントによる付加軸力です。
Q'=(M1'+M2')/L = R1',R2'
支点Aの杭反力 ΣR = R1+R1'
支点Bの杭反力 ΣR = R2+R2'
これにより、どのような事が発生するかと言うと上部構造からの反力で設計した杭が支持力不足となったり、水平耐力不足となる事が起きる場合があります。
杭が負担する水平力は杭の剛性により、分配されますので杭径を大きくしたり、杭本数を増やした部分は杭頭曲げモーメントによる付加軸力が大きくなります。
杭頭曲げモーメントの付加軸力に関する基準
各種設計基準、設計指針における杭頭曲げモーメントの付加軸力に関する記述を確認します。
【建築物の構造関係技術基準解説書】
建築物の構造関係技術基準解説書では基礎構造に対する設計用外力として、鉛直力については「転倒モーメントによる鉛直力を長期鉛直力に加減算した鉛直力」と記載されています。
地中梁に対する曲げ戻しの検討は記載されていますが、杭頭曲げモーメントによる付加軸力の記載はありません。
2008年版のQ&Aには杭頭曲げモーメントに関する記述があります。
【質問】
杭頭モーメントの建物への曲げ戻しの考慮は、設計上常に必要ですか?考慮する場合は固定時の何割程度を目安とするべきでしょうか。また、転倒に関して極限支持力等を確認するときは、杭の曲げ戻しを考慮する必要がありますか。
【回答】
一次設計においては、原則として曲げ戻しを考慮する必要があります。固定度については、実績のある工法に関しては指針等の数値を参考にできますが、実況に応じて複数の仮定によって基礎・杭のそれぞれが安全側になるように検討してください。
このとき曲げ戻しの影響は、上部構造の解析とは切り離して考えてよく、日本建築防災協会・JSCA発行の「改正建築基準法による構造計算書作成の要点と事例」では、そのような考え方のもとで設計を行った例が示されているので参考にできます。
転倒に関して、平19国交告第594号第4第五号の極限支持力の確認(塔状建物の検討)を行う場合には、曲げ戻しや保有水平耐力時の杭頭せん断力を考慮する必要はありませんが、検討することが望ましいといえます。
ここで明確に回答されているのは塔状建物に対する転倒の検討の際には杭頭曲げモーメントの付加軸力は必ずしも必要でないと言うことです。この質問は付加軸力ではなく、曲げ戻し自体の要否と固定度の評価です。以前は大阪府の『建築基準法構造関係規定取扱集 2004 年度版』では杭頭の固定度は50%で良いとの記載がありました。この事に対する質問でしょう。
https://www.icba-info.jp/kijyunseibi/qa/kouzou.php
【日本建築行政会議 構造計算適合性判定における指摘事例】
杭の水平力の計算による杭頭応力(曲げモーメント等)や杭の偏心による応力、付加ここに記載されている“付加軸力”が杭偏心による杭頭応力も含むのか、杭の偏心だけなのかが分かりづらい文面です。
軸力等に対して基礎梁やフーチングが適切に設計されていない。
明らかなのは杭基礎の場合を扱っており、「基礎梁やフーチングが適切に設計されていない。」との文面であり、ここに杭が含まれていません。
http://www.jcba-net.jp/news/kouzoukeisantekigou20150313.pdf
【愛知県建築住宅センター「判定内容事例集」】
杭頭曲げモーメントによる付加軸力に対する記載はありません。
https://www.abhc.jp/jigyo/tekihan/03-1hanteinaiyouzireisyuu.html
【大阪府 構造計算適合性判定に係る「よくある質疑事項の解説」】
杭頭曲げモーメントによる付加軸力に対する記載はありません。
https://www.pref.osaka.lg.jp/kenshi_anzen/tekihannzireisyuu/
【福岡県 判定事例による質疑事項と設計者の対応集】
杭頭曲げモーメントの伝達について検討してください。杭頭曲げの付加軸力に記載があります。これは例なので別の方法もあるとの事でしょうか?
【⇒設計者の対応例】
地震荷重時水平力による杭頭曲げによる応力は、基礎、基礎梁で負担し付加軸力を考慮した。
https://www.fkjc.or.jp/wp/wp-content/uploads/2017/05/kouzou_hanrei_taiou1.pdf
【広島県 県内構造関係規定取扱方針】
杭の地震時設計軸力に,杭頭曲げ戻しモーメントによる付加軸力考慮の要否明確に杭頭曲げの付加軸力は考慮必要と記載されています。
(広島県内での取り扱い方針)
杭の地震時設計軸力に杭頭曲げ戻しモーメントによる付加軸力考慮は必要。
※理由:地中梁の設計において,杭頭曲げ戻しモーメントを考慮することとする以上、支点反力は釣り合わせる必要があるため
https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/340593.pdf
その他、新潟県、茨城県、熊本県でも適判事例集が出されていますが、杭頭曲げモーメントによる付加軸力の記載はありません。
【構造計算書作成の要点と事例(2007年、国交省監修)】

(設計例の解説)国交省が監修している事例で杭頭曲げモーメントによる付加軸力は考慮していないと言うことは必ずしも考慮は不要とも考えられます。
杭頭曲げモーメントによる基礎梁せん断力を付加軸力として、地震時の基礎反力に加算するという考えもあるが、本例では加算していない。影響が大きい場合は慎重に判断する必要がある。
【日本建築センター 構造計算適合性判定を踏まえた建築物の構造設計実務のポイント】

日本建築センター「構造計算適合性判定を踏まえた建築物の構造設計実務のポイント」では杭頭曲げモーメントについて、詳細な記載があります。
(杭頭曲げモーメントによる基礎梁設計用応力)杭頭曲げモーメントについて以下が記載されています。
基礎梁設計用応力の算出にあたり、杭頭固定として計算した杭頭モーメントを基礎心位置まで増大させていなくても、法適合性判定の観点からは、必ずしも不適切とはいえません。
(塔状建物/杭軸力の計算における杭曲げモーメントの影響)
杭設計用の軸力には、通常、上部構造設計用の解析モデルで計算された支点反力が用いられています。そのため、杭頭モーメントを基礎梁が負担することにより生じる支点反力の変動分が、杭の設計用軸力に考慮されていないことがあります。この支点反力変動の影響を受けるのは主に側杭なので、多スパン構造で側杭の本数の割合が少ない場合は、杭全体の水平耐力に及ぼす影響は少ないですが、転倒が問題となるようなスパン数の少ない建築物では、その影響が無視できなくなってきます。従って、転倒の検討においては、杭頭モーメントを基礎梁が負担することにより生じる支点反力の変動分を杭検討用の軸力計算に考慮する必要があると言えます。
(指摘事例)
塔状比が大きく側杭に大きな軸力変動が生じています。それに加えて、杭全体本数に対する側杭の本数の割合が大きく、側杭の軸力変動が杭全体の水平耐力に及ぼす影響が大きいと考えられます。杭の断面設計や引抜きの検討において、基礎梁が杭頭モーメントを負担することに伴う付加軸力を考慮する必要はありませんか。
- 杭頭曲げモーメントは必ずしも基礎梁芯まで曲げ戻す必要はない。
- 杭設計用の軸力には通常、上部構造設計用の解析モデルで計算された支点反力が用いられる。
- 搭状建物における転倒の転倒の検討においては、杭頭モーメントによる付加軸力を考慮する必要がある。
まとめると杭頭曲げモーメントによる付加軸力は搭状建物における転倒の転倒の検討時以外は不要と読めます。技術基準解説書では転倒の転倒検討時は付加軸力考慮不要との記載がありますので法的には全て考慮不要とも考えられます。
杭頭曲げモーメントの付加軸力に関する基準について、まとめると以下になります。
まとめ
しかし、適判でも指摘される事がある。
謎は深まる。。。