この継手と定着の違いについて考えてみます。

鉄筋の継手とは鉄筋どうしを接続するものではない
継手とは単一部材の鉄筋を現場で接続する方法であり、圧接継手、機械式継手、重ね継手があります。
圧接継手、機械式継手は2本の鉄筋を1本に接続するので明解です。
分かりづらいのは重ね継手です。
鉄筋は部材断面に発生する応力における引張力を負担します。この重ね長さが足りないと鉄筋は引き抜け、この部分で破断してしまいます。そうならないように適切な重ね継手長さを確保します。この長さはコンクリート強度と鉄筋強度にて決定された鉄筋径の倍数長さL1として定められています。
鉄筋どうしは直接、繋がっていないので鉄筋に発生する引張力がコンクリート断面に伝達され、それが繋がる鉄筋に伝達されます。(鉄筋に発生する引張力をコンクリートを介して、伝達する。)
重ね継手は鉄筋どうしを束ねても、間隔を空けても良い事になっています。(空き重ね継手)
つまり、重ね継手は鉄筋どうしを接続するものではなく、継手を行った部分の断面を一体化するものです。
重ね継手は何故、鉄筋の空きは不要か
鉄筋は付着力を確保するため、コンクリートの充填性のために鉄筋の空きの規定があります。しかし、重ね継手には空きがありません。
何故、重ね継手には空きが不要かと言うと、継手部分の鉄筋の空きの規定を適用すると鉄筋が並ばなくなってしまうからでしょう。
付着力により、鉄筋はコンクリートとの一体化、応力の伝達を行いますが、重ね継手部分は元の鉄筋に対しては付着力が低下します。しかし、この部分は鉄筋が重なっている分、鉄筋量は多くなっています。これらを考慮して、重ね継手長さが決定されているのでしょう。
定着長は何故、重ね継手長さより短い?
定着長さL2が重ね継手長さL1よりも短い理由としては定着は部材の仕口部分で行われるものであり、コンクリートが拘束されており、より、付着強度が多いためです。また、鉄筋を束ねない分、付着力の低下もないためです。
鉄筋の定着は部材の中心を超えて、定着させないとならない?
このような事を言う構造設計者が居ます。
- 部材芯の位置で線材モデル化して構造計算を行っているので定着鉄筋は部材芯を超えて定着しないとならない。
- 定着される側の部材の中心を超えないと応力が伝達出来ない。
これは間違っていると考えます。
定着も部材の一体化が目的なので、応力により鉄筋が抜け出ない長さが確保されていれば問題ありません。大きな部材に定着する場合、定着長を長くしても、手前の付着力で伝達され、部材芯まで伝わると言う訳ではありません。尚、どのような部材も大きさがあるので鉄筋の定着の状態にかかわらず、必ずしも線材置換による応力状態と完全に同じにはなりません。
柱への大梁主筋定着の必要水平投影長さは別です。