2021年03月04日

層間変形角とは│構造設計者が説明する居住性の話

層間変形角とは、ずばり、これです。


 層間変形角とは地震で建物が横に揺れた時の変位の角度です。

層間変形角@.png

 地震が起きた時、建物は上図のように斜めになります。この変位(揺れ幅)の高さに対する比が層間変形角であり、変位を高さで割った値の逆数で表します。分子は1とし、分母の数字が大きいほど、揺れにくいと言う事になります。
層間変形角A.png
 建物の強度(剛性)は階ごとで違っていますので層間変形角も階ごとに算出します。




層間変形角の基準


 層間変形角は建築基準法施行令第八十二条の二で「1/200(著しい損傷が生ずるおそれのない場合にあっては1/120)以内であること」となっています。

 地震時に建物が大きく揺れると転倒を起こしてしまいます。そこまでいかなくても、壁仕上げ材などが脱落する恐れがあるため、この規定があります。

 木造や変形に追従できる壁材とした鉄骨造は1/120まで緩和されています。木造の準耐火構造の場合は防火被覆材の脱落を防ぐために1/150以下となっています。

層間変形角は居住性を示す指標


 層間変形角は居住性にも関係します。層間変形角が大きい建物だと地震時や暴風時に大きく揺れ、恐怖心、不快感を感じます。

 一般に各構造の層間変形角や揺れにくさは下記となります。RC造(鉄筋コンクリート造)に対し、木造は8倍程度、鉄骨造は4、5倍程度揺れます。揺れに対する恐怖感は単純にこの比率とはなりませんが、揺れの感じ方は明らかに変わります。
層間変形角B.png
 このような話をすると木造は怖くて住めないのか?と言うとそうではありません。地震時、暴風時の揺れによる恐怖感は層間変形角ではなく、地表面からの絶対変位が関係します。

 木造2階建てと鉄骨5階建ての例を上げて、説明します。層間変形角は木造1/120、鉄骨造1/200、階高は各階 3mとします。この場合において、木造2階部分の絶対変位は25mm(3000÷120)です。
 一方、鉄骨5階部分は60mm(3000×4÷200)となります。つまり、鉄骨5階部分は木造2階部分の2.4倍揺れることになります。この揺れ幅の違いが恐怖感、不快感に影響します。

鉄骨造の中高層マンションの計画はナンセンス


 鉄骨造で5階を超えるマンション計画の相談を受けることがあります。絶対変位による居住性を考えた場合、どうでしょう?

 上記の検討で木造3階建ての3階部分は50mmとなり、鉄骨5階部分とほぼ同じ値です。木造3階建て住宅は世の中にたくさんあり、普通に住んでいられると言う事は地震時・暴風時の揺れが
我慢できる範囲なのでしょう。これが、鉄骨10階建てとなった場合は135mmとなり、木造3階建て部分の2.7倍です。どうでしょう?我慢できますでしょうか?

 ゆえに5階を超えるマンションは世の中には殆ど、存在しません。住宅・マンション販売サイトで探しても、まず、ありません。
 コストだけを考えて、鉄骨造で5階を超えるマンションの計画はナンセンスです。検討するのも時間の無駄でしょう。

 「鉄骨造で5階を超えるオフィスビルやホテルはあるじゃないか」と言う人も居ると思いますが、その建物に居る時間が短いため、我慢ができるのです。長い時間を過ごす住宅では許容できません。

posted by 建築構造設計べんりねっと at 07:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 構造設計メモ
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