2023年03月25日

大成建設の施工不良問題、構造設計はどうすべきか?

 大成建設が札幌市中央区で施工している26階建ての超高層ビルの施工不良問題がニュースになっています。この施工不良に対し、計測値などを改ざんし、工事監理者や発注者に報告していたとのこと。この問題により、大成建設は取締役と執行役員の2人が辞任、15階まで立ち上がった地上部分全体と地下の一部を再施工することとなりました。
 構造は構造種別は鉄骨造、SRC造で制振構造を採用しています。

大成.jpg

鉄骨の傾斜について


 問題となった施工不良とは鉄骨の建て方(柱の倒れ)精度です。柱754ヶ所のち、77ヶ所でJASS6許容値(限界許容差)を平均4mm、最大で21mm超えていました。

柱の倒れのJASS6許容値
管理許容差:柱長さの1/1000 かつ 10mm 以下
限界許容差:柱長さの1/700 かつ 15mm 以下


 この建物は26階で高さ116mなので階高は平均で4.46mです。限界許容差を21mm超えていると言う事は36mmとなり、傾斜角は1/124です。建物全体の傾斜ではないものの、構造設計者の感覚からするとこの値は許容できるものではありません。





 この現場については施工管理がずさんであったこともあったのでしょう。建て方時期の差による鉄骨の熱膨張・収縮もあったかもしれません。鉄の熱膨張係数は11.7μmです。温度が20℃変わり、梁の長さが10mとすると23mm長さが変わってしまいます。これは柱の倒れにも影響します。

 もちろん、施工記録の改ざん、虚偽報告などは論外です。

スラブ厚の不足、どうすべきか


 スラブ厚が不足している箇所もあったとのことです。こちらは570ヶ所のうち、245ヶ所が平均で6mm、最大で14mm薄くなっていました。再施工前提でコア抜きをして、計測したのかどうか分かりませんが、施工者にとっては厳しい話です。

 設計スラブ厚が200mmとした場合、型枠(デッキ)もその寸法とします。コンクリート打設にはレベルを測定しながら、左官屋さんがコンクリートを均しますが、どんなに腕の良い左官屋さんでもピッタリと施工する事は出来ません。10mm、20mmの誤差は出ます。

 では確実にスラブ厚を確保するために20mm増し打ちして、施工して良いかと構造設計者に聞いても、「荷重が増えるから、ダメです。」の答えでしょう。
 設計段階で施工誤差を考慮した荷重設定をすべきなのでしょうか?

JASS6が契約内容?


 ニュース記事によると「日本建築学会の建築工事標準仕様書(JASS6)に基づき契約で定めた限界許容差を超えており」とあります。契約書にはJASS6に準拠と
記載されていたのでしょうか。日本建築学会の基準には“望ましい”と表現されているものもあり、全てを準拠するのも難しい場合もあるでしょう。

 設計契約においても、JASS5、JASS6準拠と謳われると厳しいものがあるかもしれません。あとで建築基準法には適合しているものの、契約内容に準拠していない部分があるとして、構造設計者が訴えられることも考えられます。

 品質については年々、厳しくなってきています。大きな仕事はリスクも大きいものとなっています。



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2023年03月21日

液状化の検討方法の極意@〜液状化とは

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 液状化がギリギリOKとNGでは基礎・杭の設計が大きく変わります。コストにも大きく影響を与えます。木造住宅で液状化がNGとなると直接基礎も出来なくなり、建築費は大きく跳ね上がります。液状化の恐れのある地域では木造住宅は建てられなくなってしまうほどです。

 これだけ大きな影響を与える液状化、その検討方法について解説します。




液状化のメカニズム


 まず、液状化のメカニズムについて、おさらいしましょう。

 地下水位以下の砂質地盤は砂粒子と水(間隙水)で構成されています。この時、地盤に作用する力(全応力)は砂粒子(有効応力)と間隙水(間隙水圧)が負担する関係になり、砂粒子同士のせん断応力による摩擦が地盤強度となります。

 粒子同士の隙間が多い緩い砂質地盤に地震による振動が加わるとその繰り返しせん断によって、砂粒子同士の隙間が少なくなることで体積が減少します。
 これにより、間隙水圧が増加し、有効応力(地盤強度)が減少します。この有効応力が0になった時に液状化現象が起きます。

 液状化が起こると地盤強度が無くなり、構造物が沈下します。また、地中にある配管などが浮力により、浮上る現象が起きます。杭に発生する水平応力も増え、杭が損傷する事もあります。

過去の液状化被害


 日本で液状化が注目されたのは1964年に発生した新潟地震(震度6)による被害です。RC造4階建てのマンション(県営川岸町アパート)が大きく傾きました。非常にショッキングな画像ですが、死亡被害はなかったとの事です。
液状化@.jpg

 1995年の阪神淡路大震災においても液状化が発生し、埋立地である神戸港(震度6)が側方流動で護岸が海側に最大5m以上も前傾・移動するなど、壊滅的な被害をもたらしました。
液状化A.jpg

 2011年の東日本大震災では多くの地域で液状化被害が起きました。千葉県浦安市(震度5強)の埋立地で住宅、道路や水道管の大きな被害が発生しました。
 震度5強の地震は構造設計では一次設計レベル(中地震時)か、これを少し上回る程度の地震力です。この大きさの地震でも液状化は発生しています。
液状化B.jpg

 浦安市の液状化被害については興味深い小説があります。本所次郎氏による『夢を喰らう』です。東京ディズニーランド誘致のための千葉県浦安沖の埋立事業を扱った行った経済・企業小説です。
 この小説によると当初は地盤が弱い埋立地であるため、住宅は建てられない用途地域でした。しかし、事業資金が計画よりもオーバーし、それをカバーするために用途地域を無理矢理、宅地に変更、売却することで事業資金を確保したとのこと。浦安における住宅の液状化被害は人災かもなのでしょうか。
 浦安市の分譲住宅地を販売した三井不動産などは住民より、損害賠償を求めた訴訟を起こされています。しかし、判決は「予測は困難だった」として、棄却されています。



 東日本大震災では茨城県神栖エリアでも液状化が発生しました。この付近は砂質地盤ではありますが、弱い砂質地盤ではなく、直接基礎も多かったので被害も大きなものとなりました。ここで液状化するのであれば手の打ちようがないとの声もありました。

液状化判定が必要な地盤


 設計基準では液状化の可能性がある地盤(液状化判定が必要な地盤)を以下と定めています。

『建築物の構造関係技術基準解説書』
地震時に液状化のおそれのある地盤は概ね次のイからニまで該当するような砂質地盤である。
イ.地表面から20m以内の深さにあること
ロ.砂質土で粒径が比較的均一な中粒砂等からなること
ハ.地下水で飽和していること
ニ.N値が概ね15以下であること


日本建築学会『建築基礎構造設計指針』
飽和土層において
・地表面から20m程度以浅の沖積層
・細粒土含有率が35%以下の土

埋立地盤など人工造成地盤では
・粘土分(0.005mm以下の粒径を持つ土粒子)含有率が10%以下
・または塑性指数が15%以下


 これらは液状化判定が必要な地盤”であって、液状化の恐れのある(液状化がNG)の地盤ではありません。液状化の判定方法については以降で解説します。





液状化の恐れのある(液状化がNG)の地盤の基礎工法


 液状化の恐れのある(液状化がNG)の地盤ではその層よりも上の地盤で支持する直接基礎及び杭基礎とすることは出来ません。
 杭の周面摩擦力についても液状化の恐れのある(液状化がNG)の地盤及びその上方にある地盤の考慮出来ません。
 『建築物の構造関係技術基準解説書』では以下のように解説されています。
(6)基礎ぐいの許容支持力算定時には、液状化のおそれのある地盤をその算定範囲から除く必要があることに注意する。ここでの支持力算定上除外すべき「地震時に液状化するおそれのある地盤」とは、「建築基礎構造設計指針」に示されている液状化発生の可能性の判定に用いる指標値(FL値)により液状化発生の可能性があると判定される土層(FL値が1以下となる場合)及びその上方にある土層をいう。


 また、杭の水平力に対する検討を行う際も杭側方地盤の強度を低減する必要があります。

 このように液状化の判定がNGとなった場合、基礎工法に大きく影響を与えます。






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2023年03月15日

基礎設計においては地盤のモデル化が必要

 建物の構造計算ではモデル化が重要とされています。建物を構造計算プログラムに完全に実状通り入力することは出来ません。そもそも、線材置換を行っている時点で実状とは違う部分が発生します。よって、如何に適正な構造モデルを考えるかが重要となっています。構造計算適合性判定でもこのモデル化の妥当性の審査が行われます。

 では地盤についてはどうでしょうか。近年の基礎設計について疑問に思っていることがあります。




多層地盤の地盤バネ評価を扱えるプログラムの登場


 2008年、ユニオンシステムの構造計算プログラムに基礎設計支援ソフトウェアBF1がラインナップに加わりました。このソフトでは杭の水平力検討において、多層地盤における地盤バネを評価出来ます。その他のメーカーもほぼ同じ時期に同様のソフトウェアをリリースしています。
 従来、杭の水平抵抗検討における応力解析は一様地盤中の杭を対象とした検討方法(Y.Changの計算法)としており、側方地盤の評価(地盤変形係数)は設計者が地盤調査結果より設定していました。杭の水平抵抗に影響を及ぼす深度の地盤強度が一様でない場合は検討が複数の地盤評価が必要になるなど難しい部分がありました。このような地盤において、多層地盤における地盤バネとして扱えるソフトは非常に便利なものです。
多層地盤バネ.png
 連携するソフトSoilBaseにより、地盤調査結果(N値)をそのまま、ソフトに入力することが出来ます。

 では、これで精度が向上し、より適正な基礎設計が出来るようになったのでしょうか?

地盤は土質区分ごとの評価を考える!


 地盤調査によるボーリング柱状図には土質区分が表記されています。土質区分は多岐にわたった種類がありますが設計に使用するのは“砂質土か粘性土か”とN値だけと言うのが多くの構造設計者の実状ではないでしょうか。
 では何故、このように細かく土質区分を表記するかと言うと地盤調査会社が基礎設計に必要な情報を設計者に伝達するためです。
 一つの地層も数百年、数千年をかけて形成されます。同じ地層でも厳密には異なる状態の部分がある事もありますがこれを基礎設計を行うために同じ性質を持つものとして、工学的に分類したものが土質区分です。従って、設計者も地盤調査結果からの土質区分ごとの評価を考える必要があります。






地盤はバラツキがあることを理解する!


 下図のような地盤があります。同じ礫混じりシルト層で深度5mがN値5、6mがN値15、7mがN値7となっています。
柱状図.png
 このデータを見て、深度6m付近は地盤が強くなっているとの判断をするのは不適切である事が多く、地盤強度のバラツキと考える事が妥当であることが殆どです。
 同じ敷地内で行った複数本のボーリングデータを比較すれば、同じ深度でも違ったN値となる場合も多くあり、バラツキと考える事が妥当と分かると思います。

 そもそも、工業製品とは違い、地盤はバラツキが多いものです。また、地盤調査の精度の問題もあります。礫に当たるなどにより、標準貫入試験の値が大きく出てしまう場合がある事も容易に考えられます。日本建築学会「建築基礎設計のための地盤調査計画指針」では同じ地層でN値が2倍以上の差がある場合は地盤調査の精度に問題があると書かれています。

 その層(土質区分)の評価を最小値とするのか、平均値とするのか、最小値の2倍を超える値を削除した平均値とするのかは各設計者の判断となります。




基礎設計においては地盤のモデル化が必要!


 では上記の例の地盤において、基礎設計支援ソフトウェアBF1を使用し、杭の水平抵抗の検討を行う場合、
どのように行うかと言うと多くの構造設計者は地盤調査のボーリング柱状図に忠実に土質区分、N値を入力します。
 深度6m付近がたまたま礫当たりにより、大きなN値が出たとするとこの検討は妥当ではなく、危険側の検討となっています。中には埋土層をそのまま、入力している事例も見受けられます。
 このようなソフトを使用する場合においても、各土質区分(地層)ごとの評価を行い、入力することが必要です。
 従来の一様地盤中の杭を対象とした検討方法(Y.Changの計算法)の場合、構造設計者はこの地盤のモデル化を考える必要がありました。しかし、多層地盤における地盤バネ評価が出来るソフトの登場により、このような検討が行われなくなりました。中には地盤調査結果通りに入力することがより正解に近づくと考える構造設計者も居ます。

 基礎設計においては地盤のモデル化が必要です。

posted by 建築構造設計べんりねっと at 21:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 構造設計メモ