検討は下図のRC8階建て、X方向6.5mの1スパン、Y方向5.0mの2スパンのモデルにて行います。

杭頭曲げモーメント付加軸力考慮の影響
X1-Y3通りの長期及び地震時、短期軸力は以下となります。
NL 2200 kN
NE(X) 1630 kN
NE(Y) 1740 kN
Ns(X) 3830 kN、570kN
Ns(Y) 3940 kN、460kN
杭は場所打ちコンクリート杭にて、全て同じ杭径とし、側方N値を 3(E0=2100kN/u)、杭頭完全固定とすると杭頭曲げモーメントMk及び付加軸力Nkは以下になります。
Mk 1340kN・m
NkX) 410 kN
Nk(Y) 400 kN
これを加算すると地震時軸力は約25%、長期軸力を考慮した短期軸力は約10%増えることになります。
ΣNE(X) 2040 kN ⇒1.25倍
ΣNE(Y) 2140 kN ⇒1.25倍
ΣNs(X) 3830 kN ⇒1.11倍、160kN ⇒0.28倍
ΣNs(Y) 3940 kN ⇒1.10倍、 60kN ⇒0.13倍
このケースでは支持力は長期が支配的であるため、杭支持力には影響しませんが、地震時軸力が長期軸力以上で短期が支配的になる場合は10%程度の支持力不足となります。
杭の水平耐力については検定比が0.75→0.79と4%ほど低下します。このモデルでは杭に引張力が生じていないので影響は小さいですが、引張力が生じる応力状態になると杭の水平耐力にも影響はもっと大きくなります。
各種低減を考慮した場合の杭反力
ここで各種低減を考慮します。
●転倒モーメントの低減係数(日本建築センター「高層建築耐震計算指針」)
この式によると軸力は階数%分、低減されることになり、130kN、140kNの減となります。
α=1-0.01・n =0.92(n:階数)
NE(X) 1500 kN ⇒130kN減
NE(Y) 1600 kN ⇒140kN減
●基礎根入れによる水平力の低減
基礎根入れによる水平力の低減については通常は見込まない設計者が多いかと思いますが、技術基準解説書に記載されている事項であり、考慮することもダメではありません。
α=1.0-0.2・√H / 4√Df=0.22
●杭頭固定度の低減
杭頭固定度の評価は先に記載した通り、非常に難しいことではありますが、以前、大阪府の指導事項に50%としてよいとありました。ここでは80%とします。
これに上記の根入れによる水平低減を考慮すると杭頭曲げモーメント及び付加軸力は以下となります。
Mk 840kN・m
NkX) 260 kN
Nk(Y) 250 kN
短期の軸力としては以下となり、その比率は3%程度なので、杭においては誤差の範囲とも言え、支持力には問題ないでしょう。
ΣNs(X) 3960 kN ⇒1.03倍
ΣNs(Y) 4050 kN ⇒1.03倍
杭の水平耐力検討についても杭頭固定で検討していれば、曲げモーメントが実状よりも小さいことを考えると変動軸力の影響は少ないものと考えられます。
以上より、通常の安全率(10%程度)で検討しておけば、杭頭曲げモーメントの付加軸力を考慮しなくとも十分に安全を確保できると考えられるのではないでしょうか。
どのような場合に杭頭曲げモーメントの付加軸力を考慮すべきか
上記のシミュレーションは一つの例のみであるので、どのような場合に杭頭曲げモーメントの付加軸力を考慮すべきかを考えてみます。
まず、杭頭曲げモーメントは杭側方の地盤強度が小さいと大きくなります。液状化の危険性がある地盤では付加軸力を考慮すべきと考えます。
また、1スパンの建物において、地震時に引抜力が生じている場合は付加軸力による影響も顕著になってきます。この場合も考慮が必要でしょう。
まとめ
以下の場合は杭頭曲げモーメントによる付加軸力を考慮すべき
・液状化の恐れのある場合
・1スパンの建物において、地震時に引抜が生じている場合
その他の場合は杭頭曲げモーメントによる付加軸力は考慮不要
皆さんはどう考えますでしょうか?異論反論お待ちしております。
尚、その他にも杭頭曲げモーメントによる付加軸力しないとならない場合があることもあります。法律だけでは判断できない構造モデルや設計方針に関することを審査する構造計算適合性判定では指摘されることもあるでしょう。そこには判定員の考えも入るでしょう。
しかし、法的には必ずしも考慮しなくとも良いのは明らかです。法律に適合しているかを審査する確認審査機関で審査では杭頭曲げモーメントによる付加軸力に関する指摘は少し違うのではないかと思います。