2022年06月29日

4号特例縮小の施行は2年後の令和6年春か!?

 4号特例縮小法案は6月17日に公布された「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律」の関連法案となっています。
 施行日は2025年(令和7年)との説もありましたが、現在決まっていることは、3年以内を期限とし政令で定められると言うことです。

 6月29日、「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ基準の見直しについて」の国土交通省・経済産業省の2省合同会議が開催されました。

国土交通省_画像.jpg

この会議では以下が定められることとなります。

@分譲マンションの住宅トップランナー基準
A大規模非住宅建築物の省エネ基準の引上げ
B共同住宅等の外皮性能の評価単位の見直し
C住宅の誘導基準の水準の仕様基準の新設
D共同住宅等の外皮性能の評価方法の見直し
E住宅の仕様基準の簡素合理化・誘導仕様基準
F共同住宅等の外皮性能に係るZEH水準を上回る等級






 先日のブログで書きました通り、4号特例縮小は脱炭素のついでであり、審議は行われません。

 私達、構造設計者にとっては4号特例縮小の施行日が気になるところですが、この会議の資料の中に施行日の案が記載されています。

<公布・施行予定時期>
令和4年:秋頃 公布(@〜F)、施行(B〜E)

令和5年:春頃 施行(@、F)

令和6年:春頃 施行(A)


https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/house04_sg_000173.html

 4号特例縮小は脱炭素のついでなので、上記のいずれかの時期に施行されることとなります。これによると遅くとも2年後の令和6年の春には4号特例縮小が施行されます。過去の建築基準法改正を調べても公布から施行までの期間は最長でも2年です。

 現在のところでは令和6年6月施行が最も有力でしょう。





関連する設計者は早めの準備が必要です。木造構造計算バブルとなり、構造設計料が高騰する可能性もあります。これはチャンスかもしれません。

posted by 建築構造設計べんりねっと at 20:41| Comment(0) | TrackBack(0) | ニュース

2022年06月25日

ボイドスラブ工法のコスト試算をしてみた。

 ボイドスラブを採用した案件がありましたのでコスト試算をしてみました。





ボイドスラブとは


 構造設計者には説明するまでもありませんが、ボイドスラブ工法とは鋼管やEPSブロック(発泡スチロール)をスラブ内に仕込むことで重量を上げずにスラブ厚、強度を向上させる工法です。この事により、小梁なしの大空間を作る工法です。
id4_48.jpg

 マンションにおいて、通常の階高設定では小梁形が室内に出るため、小梁位置を考え、間取りを作成する必要がありますがこの工法を使用すると自由に間取りが出来ます。このようなメリットがある一方、コストは上がります。
 尚、遮音性については向上するかどうかは微妙です。遮音性向上を目的としてボイドスラブを採用することは皆無です。
index2_fig03.jpg

ボイドスラブを採用すると1uあたり5,000円程度コストアップ


 以下の条件で在来スラブとボイドスラブのコスト試算(概算)をしました。コスト試算(概算)には『建築構造設計べんりねっと』が提供していますツール「構造コスト試算シート〜コストは建築構造の重要な性能」を利用しています。

ボイドスラブ.png

結果は以下の通りです。
コスト.png

・スラブ単体の比較:5,266円/uアップ
・床組での比較(小梁含む):4,236円/uアップ


この差額は建物全体の総建設費に対し、2%程度となります。

 これはスラブ単体、床組のみでのコスト比較ですがボイドスラブ工法を採用すると建物重量が増えます。概ね5%程度は重量が増えます。これは大梁、柱、基礎に対し、影響がないとは言えない範囲であり、大梁、柱、基礎においても多少のコストアップとなります。

 これらを考慮するとボイドスラブを採用により1uあたり5,000円程度のコストアップになります。



ボイドスラブ採用のポイント


 さて、この価格がどのような影響になるかを考えます。この差額がマンションの販売価格に転嫁されるとした場合、75uのマンションでは50万円ほど価格があがります。
※75u×0.5万円/u×1.1(経費)÷0.75(粗利率)

 マンションの購入者は50万円の価値があると考えるでしょうか?同じ50万円を払うなら、住設機器のグレードアップをしたいと考えるでしょう。
 販売価格に転嫁できないとすると販売側に対しては1uあたり5000円の利益減となります。

 ボイドスラブを採用するのであれば、このメリットを生かした魅力的な間取りとすることが重要でしょう。

構造コストから現在の日本の問題点が見える


 この試算で使用しました「構造コスト試算シート〜コストは建築構造の重要な性能」の登録単価を2022年6月版にて更新しました。
kozo.jpg
価格:1,500円
販売:Boothによるダウンロード販売

https://booth.pm/ja/items/3557561

 7月の参議院選でも議論されていますが、現在の日本には以下の問題点があり、新聞、テレビ等でも多く報道されています。
・円安による物価高騰
・上がらない給料


 以下は『建築構造の経済設計〜使える構造VE、コストダウン案 50選付き!』を販売した2021年4月、「構造コスト試算シート〜コストは建築構造の重要な性能」を販売した2022年1月および2022年6月の単価です。

●鉄筋
2021年4月:73,000(円/t)
2022年1月:89,000(円/t)
2022年6月:103,000(円/t)

●高強度せん断補強筋
2021年4月:210,000(円/t)
2022年1月:210,000(円/t)
2022年6月:215,000(円/t)

●鉄筋加工組立
2021年4月:48,000(円/t)
2022年1月:47,000(円/t)
2022年6月:48,000(円/t)

●型枠工事
2021年4月:4,800(円/u)
2022年1月:4,800(円/u)
2022年6月:4,950(円/u)

 鉄筋は141%に高騰しています。しかし、高強度せん断補強筋(溶接閉鎖型加工)については販売価格が上昇していません。つまり、原材料の高騰分を販売価格に転嫁できていないのです。これでは企業は儲からない。
 また、鉄筋加工組立、型枠工事などの工事費(人工費)も価格が上昇していません。構造設計料も変動していないでしょう。これでは給料が上がるはずがない。

 構造コストから現在の日本の問題点が見えます。



posted by 建築構造設計べんりねっと at 13:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 経済設計手法

2022年06月22日

4号特例縮小の改正理由は“ついでに“だった。

 6月13日、4号特例縮小法案が可決、17日に公布されました。施行日は3年以内を期限とし、政令で決められることとなります。構造設計者に対して大きな影響を与える改正です。
images.jpg

 この改正は「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律案」の関連法案となっています。




 しかし、構造設計基準、構造審査の強化は脱炭素とは全く関係ありません。国会でも4号特例縮小に対する議論は殆どありませんでした。何故、脱炭素と4号特例縮小がセットなのかと疑問の思う人が多いはず。

 国交省担当者は日経アーキテクチャー誌で以下のように説明しています。

『省エネ基準の審査が全ての建物に義務付けられるのに構造の審査が省略されたままはおかしいので改正した。』

 4号特例縮小は“ついでに”だったのです。

 構造設計者に大きな影響を与える改正を“ついでに”で行うのはやめて欲しい。

 思い起こせば、設備設計一級建築士も“ついでに”で作られたようなものです。耐震偽装事件、一部の構造設計者の能力不足が露呈したことにより、構造設計一級建築士制度が作られました。設備は全く関係ありませんが、構造を作るなら、設備もついでに作ろう的なノリだったのでは。。。

 構造設計一級建築士が取得出来ずに廃業した構造設計者が少なからず居ました。きっと、設備設計でも同じようなケースが発生しているのでは。

 今回の法改正で廃業せざるを得ない人も出るはず。4号特例縮小に対して反対ではありませんが、ついでによる改正で人生が変わってしまう人も居ることを考えないとなりません。




 しかし、成立してしまったものは仕方ない。問題はいつ施行するか。木造建築の場合、構造設計も意匠設計者が行っている事が多くあります。省エネ法改正と同時に施行すると多くの混乱があることが予想されます。時期をずらし、どちらかを先に施行することが混乱を避けるには効果的です。

 やはり、先は構造基準の改正か。



posted by 建築構造設計べんりねっと at 20:03| Comment(0) | TrackBack(0) | コラム