2021年12月26日

構造設計業界の2021年を振り返る

 2021年が終わろうとしています。構造設計業界における2021年を振り返ってみたいと思います。
 2021年、日本で最も大きかったイベントは東京オリンピックです。この影響か、今年も3/4は緊急事態宣言下となりました。経済界ではSDG's、脱炭素、DXの推進がキーワードとなりました。




設計図書の押印廃止、四号特例の縮小


 コロナウイルスは建築行政にも影響を与えました。緊急事態宣言が続き、建築設計においても在宅勤務が定着しました。
 このような状況下、2020年の年末、12月23日に官報にて、建築基準法施行規則の改正で公示され、1月1日より、確認申請図書における押印廃止が施行されました。そして、9月1日に建築士法が改正され、確認申請における構造設計図書は完全に押印が不要となりました。

 2021年における建築行政の動きとしては12月9日、国土交通省からパブリックコメントが出され、四号特例の縮小が事実上、決定しました。



鋼材価格高騰、ウッドショック


 2021年の年初より、鋼材価格が上がり始めました。1月に78,000円/tが12月には109,000円/tと約1.4倍になりました。
 世界各国における経済活動の再開に伴う原材料の高騰、日本製鉄を代表とする鋼材メーカーの戦略が影響をしています。
鋼材価格.png
 そして、ウッドショックです。4月に60,000円/㎥が12月には2倍となる120,000円/㎥となりました。
木材価格.png
 
 この材料価格の高騰は建設費に大きな影響を与えます。今のところ、住宅着工数は増加しており、我々構造設計者の仕事も安定していますが、今後の雲行きは怪しいものがあります。

SDG's、脱炭素が構造設計業界に与えた影響


 経済界ではSDG's、脱炭素の推進がキーワードとなりました。脱炭素は構造設計業界にも少なからず、影響を与え、中高層の木造建築が増えました。
 現在、着工されている木造ハイブリッドではない純木造で日本最大規模は大林組が手掛けている11階建てです。
木造ビル.jpg

 日本構造デザイン賞においても、島村高平氏の「大成建設技術センター風のラボ(CLT構造)」、坂田涼太郎氏の「土佐文化複合施設(木造ハイブリッド)」と木質構造の作品が受賞しています。

 しかしながら、問題はRC造よりも高くなるコスト。これがウッドショックにより、更に逆風となっています。

その他、構造設計業界の出来事


・渡辺邦夫氏が逝去
 4月9日、渡辺邦夫氏(享年81歳)がお亡くなりになりました。渡辺邦夫氏は“構造デザイン”と言う言葉を最初に使い始めた構造家です。一つの時代が終わりました。

・構造設計一級建築士の試験制度の変更
 令和3年度より、構造設計一級建築士の試験制度が変更となりました。構造設計一級建築士制度が出来て、13年が経ち、試験対策が確立された事に対し、記述式を増やし、より構造設計に関する知見を問う形になりました。

・構造設計職が仕事に対する満足度調査で第一位に
 構造設計者にとっては嬉しいニュース。11月、転職サービス「doda」がビジネスパーソン1万5000人を対象に実施した仕事に対する満足度調査で構造設計職が第一位になりました。




相変わらずの不祥事も。。。


・8月、ハイスピードコーポレーション、地盤調査データ偽造

・12月、国土交通省が建設工事受注動態統計を書き換え

posted by 建築構造設計べんりねっと at 16:58| Comment(0) | TrackBack(0) | ニュース

2021年12月16日

祝★構造設計が最も幸せな仕事に選ばれました!

 転職サービス「doda」がビジネスパーソン1万5000人を対象に実施した仕事に対する満足度調査で第一位に選ばれた職種は、なんと「構造設計(技術職)」

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https://doda.jp/guide/manzokudo/

「doda」は建築に限った転職サービスではなく、数多くある職種の中で第一位は嬉しい限りです。



つまり、我々構造設計者は労働者の中で最も幸せだと言うこと!

 この調査は総合、仕事内容、給与・待遇、労働時間(残業・休日など)、職場環境(社風・周囲の社員など)について100点満点で回答してもらった結果、「構造設計(技術職)」が70.2点で1位となっています。

記事によると以下のように解説されています。
・社会インフラに関わる仕事なので、やりがいがある。
・自分で描いた図面の建物が実際に出来上がったときにやりがいを感じる。

 仕事に対する誇りとあるが、日々、構造設計を行っている我々はこれが日常であり、特別な思いを感じることも少なくなっている。




 構造設計には高い専門スキルが要求され、経験者も少ないことから希少価値の高いキャリアを築けるとも解説されています。

 確かに高齢化は進んでおり、構造設計者の数も減っている。しかし、それほど希少性を感じるほど仕事が多いわけではない。

 さて、大事なのは構造設計者が仕事に満足することではなく、外からの評価
だと思う構造設計者は多いでしょう。

この結果がどうなるか?
●構造設計者の待遇(給与ベース)が上がるのか?
●それとも、構造設計者が増え、単価が下がるのか?
●四号特例縮小により、今後は仕事が増えることが予想される。需要が増え、単価が上がるか?


今後に注目したい。

まずは市場動向を掴むためにDODAに登録してみてはどうでしょう。





posted by 建築構造設計べんりねっと at 19:42| Comment(0) | TrackBack(0) | ニュース

2021年12月12日

四号特例の縮小は実施されるのか?それとも。。。

 令和3年12月9日、国土交通省からパブリックコメントが出されました。この中には四号特例の縮小案が含まれています。過去にも多くの議論があった四号特例。国土交通省は四号特例の縮小に踏み切るのでしょうか。

【意見募集(案)】
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000227982
4号.png



小規模木造における現状の問題点


 パブリックコメントの意見募集によると小規模木造における現状の問題点は以下とされています。
  • 断熱材や省エネ設備の設置といった省エネ化に伴って、建築物が重量化している。壁量が実態に合わなくなってきており、地震時に倒壊リスクがある。

  • 多様なニーズを背景として、大空間を有する建築物が増加しており、積雪時に倒壊リスク等が高まる恐れがある。

  • 審査省略制度(四号特例)を活用した多数の住宅で不適切な設計・工事監理が行われ、構造強度不足が明らかになる事案が断続的に発生している。


四号特例を巡る過去の経緯


 四号特例を巡る過去の経緯を以下にまとめます。
  • 昭和59年(1984年)4月、建築行政職員の体制が限られる中で、建築確認や完了検査が十分に実施できなかったこと等を背景に審査省略制度(四号特例)が導入された。

  • 平成21年(2009年)8月、四号特例を廃止すると国土交通省が発表

  • 平成22年(2010年)1月、四号特例を当面の間、継続すると発表

  • 平成30年(2018)年3月、日本弁護士連合会(日弁連)が四号特例の見直しを求める意見書を国に提出

  • 令和2年(2020年)3月、建築士法改正(建築士事務所の図書保存の見直し)、四号建築においても構造計算書(壁量計算等)の保存が義務化


 過去にも四号特例の廃止は議論になりましたが、平成19年の建築基準法改正により、建築着工数が大幅に減少し、国交省不況とも呼ばれた事を再度、繰り返すのを恐れ、未だ、実現していません。

建築基準法改正案


 パブリックコメントによる建築基準法の改正案は以下となります。

●階数2以上又は延べ面積200u超の建築物は構造安全性の基準を審査対象とする。

●木造建築物のうち、構造安全性の確保のために構造計算が必要となる建築物の範囲を500u超のものから、大空間を有するものも含まれる300u超のものに拡大する。

 詳細情報がないため、不明な部分もありますが、階数2以上又は延べ面積200u超は壁量計算等が建築確認の審査対象となる。延べ面積300u超は構造計算の対象となると謳われています。
 構造計算対象となるのは”大空間を有するものも含まれる”となっているので、スパン長で決定されるのではなく、300u超えは全て対象となるのでしょう。





国交省は建築基準法改正に踏み切るか?


 この案で国交省は建築基準法改正に踏み切るのでしょうか。過去のように建築行政の混乱を恐れ、改正は行わないのでしょうか?
 今回の改正案では構造計算対象が300u超となるのもアパート(共同住宅)や老人介護施設等が対象であり、混乱は少ないものと思われます。
 また、令和2年(2020年)3月の建築士法改正(建築士事務所の図書保存の見直し)を経ており、申請者(設計者)もある程度、対応の準備が出来ていると考えられます。木造アパート(共同住宅)を扱う住宅メーカーも大臣認定による対応が多く、混乱はありません。
 過去の四号特例廃止では業界の反対が多かったことで改正に踏み切れませんでしたが、今回は大手住宅メーカーも賛成に廻ると考えられます。

 おそらく、四号特例の縮小は実施されるでしょう。


四号特例縮小を行わないのと筋書きはあるのか?


 パブリックコメントを出した四号特例縮小を行わないのと筋書きはあるのか?

「コロナで傷んだ経済、ウッドショックにより、木造建物を扱う会社は経営が厳しくなっている。
脱炭素を実現するには建物の木造化は不可欠。
このような状況下で木造に対する規制強化は必要か?令和2年の建築士法改正(建築士事務所の図書保存の見直し)で十分ではないか」
との意見を待っていると考えられないか。

 四号特例縮小のパブリックコメントを出したが、社会の要望により、断念したと。

 平成22年(2010年)、国交省は一度、決めた四号特例廃止を無期延期とした。それから、10年が経過し、また、四号特例廃止の声が高まってきた。それを一旦、押さえ付けるための策とは考えられないか。


 四号特例縮小に反対するのは規制強化となる木造を扱う会社と国交省か。







posted by 建築構造設計べんりねっと at 19:27| Comment(0) | TrackBack(0) | ニュース