2021年06月19日

建築構造系の大学では何を学ぶべきか?

今では構造設計で就職をするには大学院卒が当たり前です。
では就職して、小さい建物でもいきなり一人で構造設計が出来るかと言うとそのような人は皆無。。。

これはどうなのだろうか。大学で建築構造系の学生は何を学ぶべきか、どうあるべきか考えてみる。
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会社側が新入社員に期待すること


 受け入れる側である会社、企業側としては早く戦力になってもらいたいと思います。
もちろん、会社、先輩社員が構造設計について教えますが、一から教えるのはしんどい。そのために建築構造系の学生を採用している。

 この程度は理解しておいて欲しいと思うことを上げてみる。

  • 初歩の構造力学への理解

  • 構造設計で扱う荷重(固定荷重、積載荷重、地震力等)

  • 応力計算

  • 各種部材の断面計算(許容応力度)

  • 保有水平耐力計算の概念

  • 構造図面が読める

  • 構造設計の流れ






 しかし、どうだろうか。簡単な応力計算すら、出来ない新入社員も多い。図面も読めない、固定荷重、積載荷重も理解していない。各種材料の許容応力度も覚えていない。

 これらを期待することは間違っているのだろうか。

建築構造系の新入社員が応力計算を出来ない理由


 なぜ、建築構造系の新入社員が応力計算を出来ないかを考えてみる。もちろん、大学では習っている。

 問題は継続しないことだと考える。だから、卒業するころには忘れてしまう。

 大学では建築構造の授業だけではない。一般教養の授業もあり、建築科目でもデザイン、環境、建築史など様々なことを学ぶ必要があります。もちろん、構造設計者は構造だけを分かっていれば良いと言う事ではなく、建築に係わる様々なことを知っている必要があります。

 そして、4年生、院生になると建築構造でも更に専門の分野に取り組むことなります。いわゆる研究です。

 しかし、どうなのだろうか?構造設計の全体像を理解しないまま、ある分野の研究に取り組むことで成果が上がるのだろうか。
 建築構造系の学生全員が将来、研究者になるわけでもない。

大学は何を学ぶところ?


 そもそも、大学は何を学ぶところなのだろうか?人一倍、大学では遊び惚けていた私が言うのもなんだが。

 ネットで調べると世の中にある多くの価値観のなかから、「何のために生きるか」、「これからどのように生きるか」という問いに対する答えを見つけるための場所と書かれている。
確かにそれも大切です。大学を選んだ時点で全員が将来を決めている訳ではなく、建築でも意匠か、構造か、設備か、施工管理かを学生時代に決めても良いと思います。


 また、大学は「学問」(研究)をするところ、非常に基礎的な原理「思考の原点」を学ぶ場所と書かれています。大学は就職前の研修機関ではなく、学問(研究)をするところなのです。
それも大切でしょう。


 一方、「大学の出口は就職であるが企業は学問には興味がない」と書いている人も居ます。これも確かにそうでしょう。

 建築学科では「建築関連諸分野が今後求める専門家となる人材を養成」などとも書かれていますが、実状どうでしょうか。

 アンマッチがあるようにも思えます。





建築構造の実務者を目指す学生に対して


 建築構造の実務者を目指す学生に対して、大学で何を学ばせて欲しいかと独断でまとめてみる。


1.構造計算を続ける学習
 構造設計は構造計算と言う手法を使用して、安全な建築を作ることなので、構造系の授業では応力計算・構造計算を行うとのプロセスを設け、構造計算をする癖をつけて欲しい。

2.建物の構造設計一式の実習
 3年生で小さな建築物、構造物で良いので構造設計一式を行う実習を行って欲しい。その後、専門分野の研究を行う上で必ず、役に立つはず。
 出来れば、実際に建築されるものだと更に良い。自分の構造設計したものが実際に建ち、それを見たときに感動があるはず。建築、構造設計への情熱が出てくるはずです。

3.考える、調べる、学ぶ力
 仕事で構造設計を行うには、マニュアル通りに行えばよいと言う事では出来ない。常に、何年経っても、自分で考える、調べる、学ぶことが必要です。仕事を指示した際、「教科書はありますか?」などとの人材では務まらない。自分で考える、調べる、学ぶ力を身に着けて欲しい。




posted by 建築構造設計べんりねっと at 11:19| Comment(0) | TrackBack(0) | コラム

2021年06月13日

配筋について考える│定着と重ね継手、その違いは?

 鉄筋どうしの接続、部材どうしの接続を行うために鉄筋を継手、定着します。重ね継手長さはL1、定着長さはL2で表記され、重ね継手長さL1は定着長さL2よりも長くなっています。

 この継手と定着の違いについて考えてみます。
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鉄筋の継手とは鉄筋どうしを接続するものではない


 継手とは単一部材の鉄筋を現場で接続する方法であり、圧接継手、機械式継手、重ね継手があります。
圧接継手、機械式継手は2本の鉄筋を1本に接続するので明解です。
 分かりづらいのは重ね継手です。

 鉄筋は部材断面に発生する応力における引張力を負担します。この重ね長さが足りないと鉄筋は引き抜け、この部分で破断してしまいます。そうならないように適切な重ね継手長さを確保します。この長さはコンクリート強度と鉄筋強度にて決定された鉄筋径の倍数長さL1として定められています。

 鉄筋どうしは直接、繋がっていないので鉄筋に発生する引張力がコンクリート断面に伝達され、それが繋がる鉄筋に伝達されます。(鉄筋に発生する引張力をコンクリートを介して、伝達する。)

 重ね継手は鉄筋どうしを束ねても、間隔を空けても良い事になっています。(空き重ね継手)

 つまり、重ね継手は鉄筋どうしを接続するものではなく、継手を行った部分の断面を一体化するものです。

重ね継手は何故、鉄筋の空きは不要か


 鉄筋は付着力を確保するため、コンクリートの充填性のために鉄筋の空きの規定があります。しかし、重ね継手には空きがありません。
 何故、重ね継手には空きが不要かと言うと、継手部分の鉄筋の空きの規定を適用すると鉄筋が並ばなくなってしまうからでしょう。

 付着力により、鉄筋はコンクリートとの一体化、応力の伝達を行いますが、重ね継手部分は元の鉄筋に対しては付着力が低下します。しかし、この部分は鉄筋が重なっている分、鉄筋量は多くなっています。これらを考慮して、重ね継手長さが決定されているのでしょう。

定着長は何故、重ね継手長さより短い?


 定着長さL2が重ね継手長さL1よりも短い理由としては定着は部材の仕口部分で行われるものであり、コンクリートが拘束されており、より、付着強度が多いためです。また、鉄筋を束ねない分、付着力の低下もないためです。




鉄筋の定着は部材の中心を超えて、定着させないとならない?


 このような事を言う構造設計者が居ます。

  • 部材芯の位置で線材モデル化して構造計算を行っているので定着鉄筋は部材芯を超えて定着しないとならない。

  • 定着される側の部材の中心を超えないと応力が伝達出来ない。


これは間違っていると考えます。

定着も部材の一体化が目的なので、応力により鉄筋が抜け出ない長さが確保されていれば問題ありません。大きな部材に定着する場合、定着長を長くしても、手前の付着力で伝達され、部材芯まで伝わると言う訳ではありません。尚、どのような部材も大きさがあるので鉄筋の定着の状態にかかわらず、必ずしも線材置換による応力状態と完全に同じにはなりません。

柱への大梁主筋定着の必要水平投影長さは別です。


posted by 建築構造設計べんりねっと at 13:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 構造設計メモ

2021年06月06日

構造設計者は手計算が出来ないとダメか!?






  • 今の若い構造設計者は手計算が出来ない!

  • だから、若い構造設計者は仕事が出来ない。

  • 最初は構造計算プログラムを使うのではなく手計算で構造計算を覚えるべきだ!

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このような事を聞くことがあるが本当だろうか?

 手計算の経験が絶対に必要と言う人は主にベテランの構造設計者であろう。年齢だと50歳以上でしょうか。構造計算書内には今でも手計算による手書きの計算書部分があります。

手計算必要派の主張


 手計算をすることに力の流れ、地震に対する建物の応答が把握できる。全て、構造計算プログラムを使用するのでは、これが把握出来ない。
 もちろん、仕事で構造計算プログラムを使ってます。しかし、手計算が出来ないと構造計算プログラム解析結果の妥当性も判断出来ない。

 全てを手計算で構造設計をしろと言っているのではなく、最初は手計算で設計しないと構造設計しないと構造設計技術は修得出来ない。

 それに構造計算プログラムを使用するよりも速く構造計算が出来る部分もあります。手計算が出来ない構造設計者は理解が少なく、結局、仕事も遅い。あと、計算プログラム、EXCELなどのみに頼る人は検算、チェックが少なくなり、間違いも多くなる。

手計算、必ずしも不要派の主張


 計算書を手計算で、手書きで紙に書くなど時代遅れ。変更があった時に消しゴムで消して、書き直すとなると時間が掛かって効率が悪い。

 簡単な架構であれば手計算をすることも出来るでしょう。増分解析による保有耐力計算など複雑な計算は出来ない。結局、手計算で出来るのはレベルの低い計算のみです。それが出来て、何になる。

 構造設計を修得するために手計算で構造計算をすると多くの時間が掛かる。それよりも構造計算プログラムを使用して数をこなす方が速く、構造設計技術を修得できる。
 そして、構造計算プログラム解析結果を疑っては構造計算は成り立たない。





手計算必要派の反論


 構造計算プログラム解析結果は設計者が与えた仮定、条件による結果を算出しているだけであり、それが正しいかどうかは別である。

 その感覚は手計算で養われる。

 手計算で簡単な計算しか出来ないと言うのも間違いである。多くの構造計算仮定(解析条件)を与え過ぎているため、複雑になり、本質が見えなくなる。もっと、シンプルにし、妥当性を確認することで安全性が確認出来る。
 構造計算プログラム解析結果の妥当性を判断するには計算過程のチェックが必要であるが一貫計算プログラムだとこのチェックが疎かになる。手計算だと嫌でも確認することになる。
 それに紙に表現することで確実にチェック効果が上がる。

手計算、必ずしも不要派の反論


 結局は精神論。構造計算プログラムがなかった時代、自分達はこれだけ苦労したと言いたいだけ。
 構造計算仮定(解析条件)を詳細にすれば、より正しい答えに近づく。手計算では簡略した手法しか出来ない。それを正しい答えとするのが間違いである。

 技術の進歩を否定しては建築構造は進歩しない。

建築構造のかたちの判定


 判定はジャッジ6対4で手計算、必ずしも不要派の主張の勝ち。





 手計算必要派の構造解析結果に対する主張はまさにその通り。簡単な架構の手計算が出来ないでは構造設計は出来ません。そんなものは会社に入ってから修得するものではなく、学生時代に修得するものです。

 仕事として会社で行うのであれば、最初は手計算で構造設計などは不要と考えます。構造計算プログラムを使っても十分に構造設計は修得出来ます。
 計算過程のチェックは構造計算プログラムでも出来ます。このチェックは必ず、行わないとなりません。何処の何をチェックすれば良いかなどと思う人は手計算でも同じです。

 重要なのは構造計算の仮定、基準、力学などを理解することです。手計算で応力計算する事に時間をかけるより、この事を理解することに時間をかけた方が有益です。

 便利なツールは効率化のために使用すべきです!

 もちろん、検算・チェックは必須です。構造計算プログラムなどのツールは、その内容を理解して使用すべきです。手計算ですぐに確認できる簡易な計算は別として、計算過程が出力されないプログラムは使用する気になれません。結果に責任が持てないからです。

 チェックも紙でも画面上でも良いですが、間違っていないとの結果が重要です。間違っている事がある人は遣り方を考えるべきでしょう。
posted by 建築構造設計べんりねっと at 10:27| Comment(0) | TrackBack(0) | コラム