2026年02月25日

若手構造設計者から言われた「それを覚えて、何のメリットがありますか?」

 新入社員に構造設計を教えるにあたり、まず、構造力学の復習を指示しました。その中で単純梁や片持ち梁などの最大応力(M、Q)を求める公式は暗記しとくように話したところ、こんな言葉が返ってきました。
「それを覚えて、何のメリットがありますか?」





 この新入社員がどのようなレベルかと言うと簡単な構造物の構造計算をさせても、曲げモーメントの値が違っている、曲げモーメントが出る方向(断面に引張力が出る方向)が逆だったりしている。メリットを考える前に「とにかく、覚えろ、理解しろ」と言ったところで出来るようにならない。

 また、さくら構造 田中社長によるYouTube動画を見て、共感したことがあるので、若手構造設計者の育成に記事にする。

若い社員には構造設計をルールとして教える


 まずは以下のYouTube動画を見て欲しい。
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 私の解釈では要点は以下です。

  • 若い構造設計職の社員に「遣り方は問わないので求める成果を達成して欲しい。」と指示。
  • 成果とは目標の売上、利益であるが構造設計者にとっては、確かな品質で、より効率良く(速く)、多くの構造設計をこなすことである。
  • 田中社長自身、ルールを細かく決められる(ルールに縛られる)のは好きではないので、若い社員も同じように考えると思った。
  • しかし、結果は出ず、その社員も不安そうにしている。
  • 田中社長は考えた結果、つまずいた部分の構造対応方法について、ルールを作った。また、つまずいたら、ルールを追加し、多くのルールを作った。
  • このようにしたら、若い社員の不安がなくなり、業務が進む(成果が出る)ようになった。


  •  出来ない社員を批判しても、会社にとっては何のメリットもない。出来るようにする方法を考え、実践することの必要性を伝えた動画である。



     確かに私も同じような経験をしたことがある。極端な例かもしれないが、このようなルールである。
  • 等分布荷重Wを受けるスパン長Lの片持ちスラブの曲げモーメントは1/2・W・L^2である。
  • スパン長 Lは取り付く梁面から、片持ちスラブ先端までの長さである。
  • この時、スラブ断面の鉄筋で引張りを受けるのは上端筋である。

  • メリットを伝え、教える


     私が言われた「それを覚えて、何のメリットがありますか?」に対しても、この人はそのように理解するのかと動機付けを行うことの必要性を感じました。

     例えば、「片持ち梁の最大応力を求める公式を覚えたら、このように片持ちスラブの設計が出来るようになるよ。」と伝えるのである。重要なのは、あれも出来る、これも出来るではなく、まず、一つに絞ることである。

     一番、言ってはならないのは「理解しないと貴方の仕事である構造設計が出来ないだろ」と逆にデメリットを言うことである。

    きっかけを掴めば成長が期待できる


     このような対応にベテラン構造者でなくとも、
    「原理原則を理解しないと応用が効かない、ここまでルール化するとなると建物一棟を構造設計するのに無限のルールが必要になる」と考えるでしょう。確かにそうです。
     しかし、このようにしないと進まない人も少なくないのです。では、これを繰り返し、無限にルールを作ることになるかと言うとそうではなく、ある時期になると原理原則を理解し、それ以上、ルールは必要なくなるでしょう。

     さくら構造の社員もこのように成長した人も多いのでしょう。単なるマニュアル構造設計者のみでは20億近い売上高となる構造設計事務所にはなりません。
    【参照】構造設計事務所ランキング2026

     さくら構造は人材育成の面でもナンバーワン構造設計事務所なのでしょう。

     若手構造設計者の育成に悩んでいる人は参考にしてほしい。



     考えてみたら、『建築構造設計べんりねっと』でも、このような構造設計講座を行っていた。
    構造設計講座(木造住宅編)個別指導サービス
    構造設計講座(擁壁編)個別指導サービス

     この構造設計講座の特徴は「計算方法について理論からの説明になると挫折してしまう人も多い。ややこしい理論は抜きにして、大まかな構造設計の流れ・構造計算方法を理解する程度とし、難しい計算はソフトに任せ、構造計算書、構造図を作り上げる。まずは構造計算書を作ってみる。そして、自信を付ける。」です。

     その他、構造設計が向いてないと諦めかけている新入社員、若手社員の方に構造設計のコツを説明する書籍も販売していますので参考にして下さい。

    構造設計を覚えるコツ〜構造設計が向いてないと諦める前に
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    posted by 建築構造設計べんりねっと at 21:31| Comment(0) | TrackBack(0) | コラム

    2026年02月14日

    RC造/ひび割れ誘発目地を設けてはならない箇所

     RC造の外壁や土間コンクリートには、ひび割れ誘発目地を設けます。しかし、スラブや木造の基礎などにはひび割れ誘発目地を設けません。この理由を解説します。
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    ひび割れ誘発目地の目的


     RC造の外壁や土間コンクリートに設けるひび割れ誘発目地の目的はRC造ではコンクリートの材料としての特性上、避けることのできない乾燥収縮、温度変化によるひび割れを目地部分に集中させることで他の部分へのひび割れを防止するものです。
     外壁は外気や日射に晒されており、ひび割れが発生しやすい状況です。土間コンクリートは梁に囲まれている構造スラブと比較し、1枚の面積が大きくなるので乾燥収縮、温度変化の影響が大きくなることでひび割れが発生しやすい状況にあります。

    ひび割れ誘発目地の弱点


     このひび割れ誘発目地ですが良いことだけでなく、以下の弱点もあります。
  • 構造断面を欠損させることになるので強度が低下する。
  • 目地の厚み分、鉄筋のかぶり厚が少なくなり、耐久性が低下する。
  • ひび割れ箇所で水が浸入すると鉄筋のサビが発生し、強度の低下、コンクリートの剥離の懸念がある。

  •  よって、外壁のひび割れ目地は増打ち部分や内側の鉄筋位置に目地を設け、目地部分はシーリングを行うことで水が浸入しないようにします。但し、シーリングは定期的に補修が必要となります。
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     土間コンクリートについては部材断面の強度ではなく、地盤の強度で床を支持します。鉄筋もひび割れ防止のためのシングル配筋であることが多いので目地を設けてもかぶり厚も確保でき、強度の低下はありません。但し、外部の土間コンクリートではコンクリート打設後にカッターで目地を設けるのではなく、エラスタイトにより、鉄筋も切断することがサビの発生によるコンクリートの剥離を防止するのに望ましい方法です。



    スラブや木造の基礎に誘発目地を設けない理由


     スラブにひび割れ誘発目地を設けない理由は上記の弱点によるものになります。
  • 鉛直面である壁に対し、水平面となるスラブでは雨水侵入による鉄筋のサビ発生(強度低下)の懸念がある。
  • 鉄筋のかぶり厚の確保、断面欠損を避けるためには増し打ちが必要になるが建物重量、地震力の増加となり、耐震性を低下させることになる。

  •  木造の基礎においても常時湿潤状態にある地中にあるため、水の侵入による鉄筋のサビ発生(強度低下)の懸念があるのでひび割れ誘発目地は設けません。



    構造スラブ、木造基礎のひび割れ対策


     構造スラブ、木造基礎においてもひび割れが発生することがあります。上記の理由により、「ひび割れ誘発目地を設けられないので、ひび割れが発生しても仕方ない」とはなりません。構造スラブ、木造基礎のひび割れ対策を解説します。
     構造スラブ、木造基礎において、ひび割れが発生しやすい場所は外気や日射に晒されており、乾燥収縮、温度変化の影響が顕著となる外部です。木造基礎であれば外周部、RC造の構造スラブであれば外部の片持ちスラブです。そして、乾燥収縮、温度変化は部材の長さ方向に影響が大きくなります。つまり、木造基礎であれば、ひび割れは縦方向、RC造片持ちスラブであれば長さの直角方向となることが多いと思います。

     コンクリートがひび割れるとはひび割れ方向と直交方向に力が作用したことになります。片持ちスラブであれば配力筋、木造基礎であれば主筋・腹筋方向です。これらの鉄筋を十分に配筋することが対策となります。詳細については日本建築学会「鉄筋コンクリート造建築物の収縮ひび割れ制御設計・施工指針・同解説」を参照して下さい。




    タグ:RC造
    posted by 建築構造設計べんりねっと at 14:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 構造設計メモ

    2026年02月01日

    施工不具合対応マニュアル/鉄筋継手の不具合

     鉄筋の継手は通常、D16以下は重ね継手、D19以上は圧接とします。D35以上は重ね継手は禁止されています。RC造における鉄筋の継手に関する施工不具合の対応方法を解説します。
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    重ね継手の差筋位置がずれている


     重ね継手は通常、鉄筋どうしを束ね、結束線で結びます。壁やスラブなどのコンクリート打ち継ぎ位置で重ね継手のための差筋が本来の位置よりも部材の長さ方法でずれている場合があります。
     この時、差筋の台無しを行い、鉄筋どうしを束ねる方法もありますが、下図のように空き重ね継手と呼ばれる方法も日本建築学会「配筋指針」で認められています。
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     この場合、鉄筋どうしの間隔が0.2・L1かつ150mm以下である必要があります。また、空き継手と出来るのは壁、スラブなどで鉄筋が部材の長さ方法にずれている場合のみで部材断面の内部側に鉄筋ずれている場合は採用出来ません。もちろん、断面の外側にずれている場合はかぶり厚さが確保できなくなるので採用出来ません。




    鉄筋の空きが確保出来ない


     小梁などの主筋でD16以下の場合は重ね継手とするのが一般的であり、通常は鉄筋を横に並べて、束ねます。鉄筋を横に並べると隣の鉄筋との空きが取れない場合、継手鉄筋を上下(縦)に並べる方法も日本建築学会「配筋指針」で認められています。
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     尚、継手鉄筋は継手範囲から外れる位置より緩やかに正規の位置に戻します。

    圧接が出来ない


     施工の仮設計画で大梁部分にコンクリートの打ち継ぎを作り、中央部分を後打ちとする場合があります。このような時、梁主筋の圧接が出来なくなります。圧接は継手部分の鉄筋をガスで加熱し、圧力を掛け、一体化しますが、両側のコンクリートが打設済であると鉄筋を引っ張り、圧力をかけることが出来なります。
     このような時の対応ですが、まず、鉄筋の空きが確保出来るのであれば重ね継手でも構いません。しかし、通常は重ね継手で納まる断面、鉄筋本数となっていないでしょう。鉄筋の継手には溶接(突合せ)や機械式継手も認められていますので、これらを検討しましょう。



    重ね継手長さが足りない


     コンクリートの打ち継ぎ位置からの差筋が重ね継手長さL1に不足している場合の対応方法です。
     このような時の対処方法としては圧接、溶接(突合せ)、機械式継手が考えられますが、その他の方法としてはフレア溶接があります。フレア溶接の場合、溶接長さは片面10d又は両面5dのいずれかになります。しかし、異形鉄筋はリブがあり、現場での溶接となると溶接品質を確保するのが難しいので、余りオススメ出来ません。





     構造計算による再検討が必要ですが以下の方法もあります。重ね継手長さL1はコンクリート強度ごとに鉄筋径(呼び径)の40倍などと定められています。これは鉄筋に作用する力とコンクリートの周面付着強度から決定されています。しかし、部位ごと、コンクリート強度ごと、鉄筋径ごとに重ね継手長さを設定するのは設計側も施工側も作業が煩雑になるので、鉄筋のフル強度に対し、計算したものを丸めて定めています。つまり、個別に計算すれば、若干は短く出来ます。
     もう一つはイレギュラーですが鉄筋径を変えてしまう方法です。異なる径の鉄筋を重ね継手とする場合、重ね継手長さは小さい方の径で決定します。つまり、鉄筋径を下げれば重ね継手長さを短く出来ます。この場合、元の鉄筋断面積と同等になるように本数を増やす必要があります。これは空き重ね継手とします。

    posted by 建築構造設計べんりねっと at 18:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 構造設計メモ